2023年、旧ジャニーズ事務所を大きく揺るがしたジャニー喜多川氏の性加害問題。その流れの中で大きな転換点の一つとなったのが、元ジャニーズJr.のカウアン・オカモトさんによる実名・顔出しでの告発でした。
では、もしカウアンさんがあの時、声を上げていなかったらどうなっていたのでしょうか。
BBCによる報道はすでにあったため、問題自体が表面化しなかったとは考えにくいでしょう。一方、旧ジャニーズ事務所の社名変更やSMILE-UP.への移行、STARTO ENTERTAINMENTの誕生までが同じスピードで進んだかは別の話です。
実際に起きた出来事をもとに、「カウアン・オカモトさんが告発しなかった世界線」を考えてみます。
カウアン・オカモトが告発しなくても問題はいずれ表面化した?
まず押さえておきたいのは、カウアンさんがジャニー喜多川氏をめぐる問題を最初に世の中へ出した人物ではないということです。
過去にも元所属者による証言や週刊誌報道があり、2023年3月にはイギリスBBCがジャニー氏をめぐる性加害問題を扱ったドキュメンタリーを放送しています。
つまり、カウアンさんが2023年4月に会見を開かなかったとしても、BBCによる問題提起そのものは存在していました。そのため「カウアンさんが告発しなければ性加害問題は知られなかった」と考えるのは正確ではありません。
ただ、その後の流れを見ると大きな意味を持った出来事だったことも分かります。
カウアンさんは2023年4月12日、日本外国特派員協会で会見。ジャニーズJr.として活動していた時期にジャニー氏から性被害を受けたと実名・顔出しで訴えました。
海外メディアが問題を取り上げた段階から、日本で活動していた元所属者本人が記者の前に立って具体的に証言する段階へ進んだことになります。
その後、橋田康さんや二本樹顕理さんら別の元所属者も実名で被害を訴えました。2023年6月5日にはカウアンさん、橋田さん、二本樹さんの3人が児童虐待防止法の改正を求める約4万人分の署名を与野党に提出しています。
カウアンさんの告発が別の元所属者による証言の直接的な原因だったとまでは確認できません。それでも、BBC報道の直後に元所属者が実名・顔出しで会見し、その後も複数の証言が続いたという時系列は、この問題を考えるうえで重要です。
告発がなければ「ジャニーズ」の名前はもっと長く残った?
ここからは、確認できる事実をもとにした考察です。
カウアンさんが2023年4月に告発していなかった世界を考えた場合、あり得るのは「何も起きなかった世界」ではなく、「同じような変化がもっと遅れて起きた世界」ではないでしょうか。
BBC報道だけで同じスピードの改革が起きたかは分からない
BBCのドキュメンタリーが放送されたのは2023年3月です。カウアンさんが会見したのは4月12日。そして5月14日には、当時社長だった藤島ジュリー景子氏が動画と文書を公表し、謝罪しました。
5月26日には外部専門家による再発防止特別チームの設置が発表され、その後、調査が進められます。
8月29日には特別チームが調査結果を公表。9月7日には旧ジャニーズ事務所が会見を行い、藤島氏が社長を辞任し、東山紀之氏が新社長に就任しました。
さらに10月2日の会見を経て、10月17日に「ジャニーズ事務所」という社名は「SMILE-UP.」へ変更されています。
BBC報道から約7か月で、「ジャニーズ」という長年使われてきた会社名までなくなったことになります。
もし4月のカウアンさんによる実名告発がなかった場合、BBC報道があっても、ここまで短期間に会社の体制そのものが変化したかは分かりません。少なくとも、2023年に起きた一連の流れがまったく同じタイミング、同じスピードで進んだとは限らないでしょう。
別の元Jr.が実名で告発した可能性も
一方で、カウアンさんが声を上げなければ誰も告発しなかった、と考えるのも適切ではありません。
実際、その後には橋田康さんや二本樹顕理さんをはじめ、複数の元所属者が実名で被害を訴えています。
そのためカウアンさんが会見しなかったとしても、別の元所属者が公の場で証言し、結果的に同じような問題提起が行われた可能性はあります。
ただ、それが2023年だったのか、さらに後だったのかは誰にも分かりません。そう考えると、カウアンさんが告発しなかった世界で大きく変わっていたのは、最終的な「結果」より「時間」だった可能性があります。
STARTO ENTERTAINMENTは現在の形では誕生していなかったかもしれない
もし2023年の流れが起きていなければ、現在の芸能界にも違いが生まれていた可能性があります。
旧ジャニーズ事務所は2023年10月17日にSMILE-UP.へ社名を変更しました。被害者への補償を担うSMILE-UP.とは別に、タレントのマネジメントなどを担う新会社としてSTARTO ENTERTAINMENTが設立されます。
STARTO ENTERTAINMENTの法人としての設立日は2023年10月17日。12月8日に新会社の発足が発表され、2024年4月10日から本格的に業務を開始しました。
STARTOはSMILE-UP.と資本関係を持たない別法人として発足しています。
そのため、性加害問題が2023年に現在と同じ規模まで拡大していなければ、STARTO ENTERTAINMENTが現在の形で誕生していなかった可能性は考えられます。
もしかすると2026年になっても「ジャニーズ事務所」という名前、あるいはそれに近い会社体制が残り、Snow Man、SixTONES、なにわ男子などが今も「ジャニーズのグループ」と呼ばれていた世界もあったのかもしれません。
もちろん、これはあくまで反実仮想です。BBC報道が存在した以上、カウアンさんの告発がなくても、別のきっかけによって改革を迫られていた可能性もあります。
所属タレントたちの未来も違っていた可能性
変わっていた可能性があるのは会社名だけではありません。
2023年に性加害問題が大きく表面化すると、所属タレントを広告に起用していた企業の間でも契約を見直す動きが相次ぎました。
さらに、問題がタレント本人の進路に影響したことを公式に確認できる例もあります。岡田准一さんです。
旧ジャニーズ事務所は2023年10月に岡田さんの退所を発表した際、今回の決断について「故ジャニー喜多川性加害問題に起因」していると明記しました。
つまり、少なくとも一部のタレントについては、性加害問題がその後のキャリアに影響を与えたことが公式情報から確認できます。
もし2023年に事態が現在と同じ規模まで拡大していなければ、タレントが独立する時期、事務所との契約方法、スポンサーとの関係なども違ったものになっていた可能性があります。
一方ですべての退所、独立、グループの変化を性加害問題と結びつけることはできません。それぞれのタレントには本人のキャリアや活動方針があるためです。
カウアン・オカモトの告発が変えたのは「結果」より「時間」だった?
ジャニー喜多川氏をめぐる問題は、2023年に突然出てきたものではありません。それ以前にも元所属者の証言や報道があり、2023年3月にはBBCも大きく取り上げていました。
それでも、そこから旧ジャニーズ事務所の社名がなくなるまでの動きが急速に進んだ時期と、カウアンさんが実名・顔出しで会見した時期が重なっていることは事実です。
だからといって、「カウアン・オカモトさん一人がジャニーズ事務所を終わらせた」と考えるのは正確ではありません。
BBCによる報道、過去に声を上げた元所属者、その後に証言した人たち、取材を続けたメディア、外部専門家による調査、スポンサーや社会からの反応など、複数の要素が重なって起きた変化だからです。
それでもカウアンさんは、その大きな流れの中で重要な位置にいた一人だったと言えるでしょう。
もしカウアンさんが2023年4月に告発していなかったとしても、いずれ別の証言者が現れ、旧ジャニーズ事務所が改革を迫られた可能性はあります。ただ、それが2023年だったとは限りません。
「ジャニーズ」の名前がもう少し長く残っていたかもしれない。STARTO ENTERTAINMENTは現在とは違う形になっていたかもしれない。所属タレントたちの独立や契約の形も違っていたかもしれません。
カウアン・オカモトさんが告発しなかった世界線を考えると、変わっていたのは歴史の「結末」そのものより、長年止まっていた時計が動き出すタイミングだったのかもしれません。