昔流行った「おしっこを飲む健康法」とは?飲尿療法が信じられた理由

昔、自分のおしっこを飲む健康法があったのを覚えていますか? あれは「飲尿療法(いんにょうりょうほう)」、別名「尿療法」です。

1990年代には医師が関わった関連書籍が出版され、がんや難病にまで効果があるとする体験談が紹介されていました。しかし、現在の医学では飲尿による健康効果は証明されておらず、推奨されていません。

どうして、そんな健康法が注目されたのでしょうか。当時の記録をたどってみました。

目次

飲尿療法とは?昔流行った「おしっこを飲む健康法」

飲尿療法とは、自分の尿を飲み、健康維持や病気の改善を目指す民間療法です。朝に出た尿を飲むといった方法も語られましたが、医学的に確立された治療法ではありません。

当時の関心の高さを示すのが、1990年3月にマキノ出版から出た『奇跡が起こる尿療法』です。編者は中尾良一氏。副題には「勇気さえあれば、治らなかった病気が治る」とありました。

本の目次には、がんへの効果をうたう内容や、難病が治ったとする13人の体験談が並んでいます。もちろん、これは当時の本に掲載された主張であって、治療効果が証明されたという意味ではありません。

1992年には中尾氏の『尿療法でなぜ病気がどんどん治るのか』、1993年には『新・事実が語る尿療法の奇跡』なども刊行されました。複数の本が出ていたことは確かですが、全国で何人が実践したかという信頼できる統計は確認できません。

なぜおしっこが健康によいと考えられたのか?

尿に含まれる成分を再利用するという発想

尿は約95%が水で、尿素、クレアチニン、電解質なども含まれます。体内のさまざまな物質が尿に排出されることから、そこに有益な成分もあるのではないかと考える人たちがいました。

しかし、成分が存在することと、それを飲むと体によいことは別です。尿は腎臓が余分な水分や老廃物を排出するために作るもの。飲み直せば健康になるという根拠はありません。

免疫力や自然治癒力が高まるという説

飲尿療法では、体から出た物質を再び取り込むことで免疫や自然治癒力を刺激する、という説明もされてきました。アレルギーや慢性疾患、さらにはがんへの効果を期待する主張もありました。

ただし、こうした仕組みが人間で有効に働き、病気を治すことを示す信頼できる臨床的証拠はありません。病気が改善したという個人の体験談だけでは、尿が原因だったとは判断できないのです。

「自分のものだから安心」という思い込み

薬を買わなくても始められる手軽さや、自分の体から出たものだから安全そうだという印象も、支持された理由の一つとして考えられます。

しかし、自分の尿だから無菌というわけではありません。薬の代謝物や細菌などが含まれる場合もあり、健康法として飲むことは勧められません。

誰が広めた?1990年代の本と有名人の話

日本で尿療法の普及に取り組んだ人物として記録されているのが、山梨県甲府市の内科医・中尾良一氏(1912〜2002年)です。

山梨県立図書館の調査によると、中尾氏の話を聞いて尿療法に関心を持った外科医・佐野鎌太郎氏も、1993年に『医者がすすめる尿療法』を出版しています。

医師が本を出し、患者の体験談が紹介されれば、説得力を感じる人もいたでしょう。ただし、医師が紹介していたことと、医学的な効果が立証されていることは同じではありません。

さくらももこも飲尿療法について書いていた?

意外なところでは、『ちびまる子ちゃん』で知られる漫画家・さくらももこさんの名前も挙がります。

2020年11月12日の日刊ゲンダイは、さくらさんが1992年の著書『さるのこしかけ』で飲尿療法を実践していることを明かしていたと報じています。

当時の健康法が、医療関係者だけでなく著名人のエッセーでも話題になっていたことがうかがえます。ただし、この記事だけで当時の全国的な流行規模まで断定することはできません。

今はどう評価されている?飲尿療法の効果と危険性

現在、飲尿療法に健康上の利益があるという信頼できる科学的根拠はありません。

米国の中毒情報専門機関Poison Controlは、尿は無菌ではなく、老廃物などを含むため飲むべきではないと説明しています。飲んだ場合、吐き気や嘔吐、下痢が起こることもあります。

「尿素は保湿クリームにも使われているから、美容にもよいのでは?」と思うかもしれません。しかし、化粧品に配合される精製された尿素と、尿をそのまま飲むことはまったく別です。飲尿による美肌や若返りの効果も証明されていません。

うっかり少し飲んだ場合は?

少量を誤って飲んだからといって、必ず重い症状が出るわけではありません。Poison Controlも、偶発的に少量を口にした例では、重い症状が起こる可能性は低いと説明しています。

ただし、繰り返し飲むことや病気の治療に使うことは別問題。特に重い病気で適切な治療を遅らせることは避けなければなりません。体調が悪くなった場合は医療機関に相談してください。

まとめ:昔の飲尿療法は実在したが、効果は証明されていない

「昔、おしっこを飲む健康法があった」という記憶は、勘違いではありません。1990年代には中尾良一氏らによる関連書籍が相次ぎ、病気が治ったという体験談まで紹介されていました。

尿に含まれる成分や自然治癒力に期待する考え方が背景にあったものの、飲んで健康になるという科学的根拠はありません。

昔の健康ブームを振り返ると、当時はもっともらしく聞こえた説明も、医学的な証拠と照らし合わせることが大切だとわかります。

参考資料

CiNii Books『奇跡が起こる尿療法』/山梨県立図書館のレファレンス記録/国立国会図書館『尿療法でなぜ病気がどんどん治るのか』/Poison Control

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