大みそかはK-1やPRIDEを見ていた。そんな人にとって、最近の格闘技中継は少し寂しく感じられるかもしれません。ボクシングも、井上尚弥選手の世界戦をテレビで気軽に見られる時代ではなくなりました。
では、格闘技の人気が落ちたのでしょうか。必ずしもそうではありません。大きな理由は、広告収入で放送する地上波より、会員獲得や有料チケット販売につなげる配信サービスの方が、人気試合を事業として活用しやすくなったことです。
ただし、格闘技とボクシングでは地上波から離れた経緯が異なります。かつてのテレビ全盛期から、2022年の「THE MATCH」、2026年の井上尚弥vs中谷潤人戦まで振り返ります。
K-1・PRIDEはなぜテレビから消えた?
2000年代の格闘技は、テレビの人気コンテンツでした。K-1ではボブ・サップや魔裟斗、PRIDEでは桜庭和志らが活躍。試合を普段見ない人でも、選手の名前を知っているほどでした。
2003年の大みそかには複数の民放局が格闘技を放送し、曙vsボブ・サップ戦が大きな話題に。年末に家族で格闘技を見るという光景も珍しくありませんでした。
転機の一つは2006年。フジテレビがPRIDEとの放送契約を終了しました。その後、PRIDE自体も従来の形では続かなくなります。K-1も運営体制の変化などを経て、かつてのような大型地上波中継は減っていきました。
ただ、格闘技がテレビから完全に消えたわけではありません。2015年に始まったRIZINはフジテレビで大みそかに放送され、朝倉未来選手や那須川天心選手らが新しいファンを引きつけました。
2022年の「天心vs武尊」は大きな転換点
2022年6月の「THE MATCH 2022」では、長年待ち望まれた那須川天心vs武尊が実現しました。ところがフジテレビは大会前に放送を見送ると発表。公式には、主催者側と契約に至らなかったと説明しています。
当時はRIZIN関係者をめぐる週刊誌報道もありましたが、それが放送中止の直接の理由だったと断定はできません。
一方、大会はABEMAでPPV(ペイ・パー・ビュー、試合ごとに視聴料を払う方式)配信され、販売件数は50万件を突破しました。無料テレビで流さなくても、ファンがお金を払って見る。そんな新しいビジネスの強さを示した大会だったのです。
井上尚弥のボクシング世界戦まで有料配信になった理由
ボクシングでも大きな変化が起きています。かつて世界タイトルマッチは日本テレビやTBS、フジテレビなどでおなじみでした。
しかし2022年には村田諒太vsゴロフキン、井上尚弥vsドネア第2戦がPrime Videoで配信されました。その後も井上選手の世界戦は配信サービスが重要な中継先となっています。
象徴的なのが、2026年5月2日に東京ドームで行われた井上尚弥vs中谷潤人戦です。地上波中継はなく、LeminoのPPVでライブ配信。通常の事前販売価格は税込6,050円、当日は税込7,150円でした。一部のドコモ料金プラン契約者には追加料金なしの視聴特典も用意されていました。
ここで重要なのは、動画配信だから必ず都度課金というわけではないこと。月額料金内で見られる試合もあれば、別料金のPPVもあります。どの方式を採るかは大会や契約によって異なります。
テレビ局と配信会社では収益の仕組みが違う
民放の地上波中継は、主にスポンサーの広告収入で費用を回収します。放映権料や制作費が高くなれば、それに見合う広告収入を確保する必要があります。
一方、配信サービスは試合の視聴料金だけでなく、新規会員の獲得や既存会員の継続利用も期待できます。注目カードを独占すること自体が、サービスを選んでもらう理由になるわけです。
仮に5,000円のPPVが30万件売れれば、単純な販売額は15億円。ただし、そこから制作費、手数料、関係者への分配などが差し引かれるため、15億円がそのまま利益になるわけではありません。
なお、個別の試合の放映権料や各社の利益は公表されていないケースが多く、「配信会社がテレビ局より必ず高く買っている」とまでは断言できません。
視聴率やスポンサー、放送時間も関係する?
地上波には、格闘技ファンだけでなく幅広い視聴者に番組を届ける役割があります。熱心なファンが多くても、テレビ局が求める広告効果と一致するとは限りません。
また、生中継では試合が早く終わることも、逆に判定まで長引くこともあります。放送枠の調整が必要になる点は、時間に比較的柔軟な配信との違いです。
大会の運営体制やスポンサーへの説明責任も放送判断に関係し得ます。ただし、こうした要因が全大会の地上波撤退の直接原因だと示す資料はありません。経済面と編成面の事情が重なっている、と考えるのが妥当でしょう。
格闘技やボクシングの地上波放送は復活する?
復活の可能性はあります。ただし、以前のように注目試合を毎回無料で生中継する形に戻るのは簡単ではなさそうです。
人気カードには有料配信で収益を得られる価値があり、配信会社にとって独占する意味が大きいからです。その一方、テレビには格闘技を知らない人に選手の魅力を届けられる強みがあります。
例えば、地上波で特集やダイジェストを放送し、試合本編は配信する形なら、双方の強みを生かせるかもしれません。もちろん、実現するかどうかは各大会の放映権契約次第です。
かつてテレビで偶然見た試合をきっかけに、格闘技ファンになった人も多いはず。無料放送の減少は、これから選手を知る子どもたちの入口が狭くなることにもつながります。
格闘技が不人気になったからテレビから消えたのではなく、人気の高い試合ほど有料配信の価値が上がった。そこに、現在の格闘技中継をめぐる変化が表れているのでしょう。