野獣先輩の画像や動画は、長年にわたってネット上で転載・加工されてきました。もし本人が今、投稿者を訴えたら億万長者になれるのでしょうか。
結論として、肖像やプライバシーなどの権利侵害が認められれば損害賠償を請求できる可能性があります。しかし、投稿した人全員が違法になるわけでも、一定額を一律に請求できるわけでもありません。判例と法律をもとに整理します。
野獣先輩は今から無断転載を訴えられる?
「野獣先輩」は、過去の成人向け映像に登場した人物を指すネット上の通称です。出演映像の一部がネットミームとして広まり、静止画、音声、加工動画などが長年投稿されてきました。
元の映像に出演したことと、第三者による無制限な転載・加工に同意したことは別です。本人の肖像やプライバシーに関する利益が、ネット上で有名になったという理由だけで消えることはありません。
ただし、肖像を無断で使用したというだけで、すべての投稿が直ちに違法になるわけではありません。投稿の目的、内容、利用の態様、本人への不利益など、個別の事情を踏まえる必要があります。
最高裁判例は何を示している?
2005年11月10日の最高裁判決では、人にはみだりに容ぼうなどを撮影されない人格的利益があるとしながら、撮影の目的や態様などを総合的に考慮し、社会生活上受忍すべき限度を超えるかどうかが問題になると示されました。
この判決は野獣先輩の転載について直接判断したものではありません。また、既存映像の転載には、撮影時の同意や元の作品の権利関係など別の論点もあります。
したがって、特定のネットミームについて裁判で勝てると断言することはできません。
全員訴えたら賠償金で億万長者になれる?
仮に1人につき10万円の賠償が認められると想定すれば、100人で1,000万円、1,000人で1億円、1万人で10億円です。
しかし、この10万円は計算用の仮定であり、野獣先輩のケースで認められる賠償額や相場を示すものではありません。
そもそも、すべての投稿について権利侵害が成立するとは限りません。投稿ごとに内容や事情が異なり、損害の発生や因果関係も検討されます。複数の投稿が同じ損害に関わる場合に、単純に人数分を重複して受け取れるとも限りません。
投稿の種類によって問題になる権利も違う
- 映像を丸ごと転載する:映像の著作権などが問題になり得る
- 顔写真を加工して投稿する:肖像やプライバシーなどの利益が問題になり得る
- 侮辱的な説明を付ける:内容によって名誉毀損などが問題になり得る
- 動画を収益化する:収益の有無は事情の一つだが、利益全額が本人の賠償金になるわけではない
- ネットミームを文章で論評する:それだけで直ちに権利侵害になるわけではない
特に注意したいのは著作権です。元の映像の著作権を持つのが誰なのかは契約などによって決まり、出演者本人が必ず映像の著作権者というわけではありません。
肖像権、プライバシー、著作権をひとまとめにして賠償額を計算することはできないのです。
匿名の投稿者は特定できる?裁判にかかる負担
多数の投稿者を訴えるには、まず投稿と相手を特定する必要があります。
情報流通プラットフォーム対処法には、一定の条件のもとで発信者情報の開示を求める制度があります。権利侵害が明らかであることや、開示を受ける正当な理由があることなどが要件です。
ただし、開示請求をすれば誰でも必ず特定できるわけではありません。記録の保存状況や投稿内容によっては、特定が難しい場合もあります。
さらに、多数の相手について証拠を確保し、開示請求や訴訟を進めるには、時間と費用がかかります。勝訴しても請求額の全額が認められるとは限らず、実際に回収できるかも別問題です。
そのため、投稿者が多いほど必ず利益が増えるという計算は成り立ちません。
昔の投稿でも今から請求できる?消滅時効の問題
長年残っているネットミームでは、いつ投稿されたかも重要です。
民法724条では、一般的な不法行為による損害賠償請求権について、被害者が損害と加害者を知った時から3年間、または不法行為の時から20年間行使しない場合の消滅時効が定められています。生命・身体を害する不法行為には別の規定があります。
もっとも、昔の投稿が今も閲覧できる場合の評価や、個々の請求権の起算点、法改正前後の経過措置などは事案によって異なります。「20年前の投稿だから必ず請求できない」「公開中だから時効にならない」と一律に判断することはできません。
損害賠償とは別に、現在公開されている情報について削除を求める余地もあります。削除が認められるかどうかも、具体的な権利侵害の有無などによります。
野獣先輩本人の現在や訴訟の意思は?
今回の検証は、あくまで「もし本人が訴えたら」という仮定の話です。本人が実際に大規模な損害賠償請求を進めていることや、ネットミームについて現在どのように考えているかを裏付ける信頼できる公表情報は確認できていません。
本人の身元や現在の生活について、根拠のない特定情報を広めることも避けたいところです。
結局のところ、ネットミームとして有名でも本人の権利が消えるわけではありません。一方で、利用者全員を訴えて億万長者になるという計算には、法律上も手続き上も多くのハードルがあります。面白い仮定だからこそ、現実の権利と切り分けて考えたいですね。