「お前やりますねぇスギ」「田所浩二!」などの強烈なフレーズとダンスで広がっている「INMU KING(インムキング)」。一見すると新しいアーティストの曲にも見えますが、実際は長年ネットで親しまれてきた「真夏の夜の淫夢」関連のミームを題材にした楽曲・MVです。
2026年8月10日の「野獣の日」に投稿され、ニコニコ動画を中心に急速に拡散。YouTubeやSNS、「踊ってみた」などの派生動画にも広がりました。
INMU KINGとは何なのか、作者のやじゅまんとYAJU-MCの関係、「田所浩二」の意味、元ネタ、そしてなぜ2026年にここまで広がったのかを整理します。
INMU KINGとは?2026年の「野獣の日」に公開されたMV
INMU KINGは、動画投稿者「やじゅまん」が2026年8月10日に公開した、野獣先輩をはじめとするネットミームを題材にした楽曲・ミュージックビデオです。
ニコニコ動画で公開された本家MVのタイトルは「【MV】INMU KING / YAJU-MC」。投稿時刻は8月10日0時ちょうどで、動画の長さは4分7秒です。
8月10日は数字の「810」を「やじゅう」と読む語呂合わせから、ネット上では以前から「野獣の日」と呼ばれてきました。INMU KINGもこの日に合わせて公開されています。
作品の中心になっているのが、2000年代からネットミームとして広まった「野獣先輩」です。
ただし、昔の映像をそのまま編集しただけのMADとはかなり印象が異なります。INMU KINGでは生成AIを活用した映像表現が使われ、関連人物をモチーフにしたキャラクターが次々に登場するミュージックビデオ風の作品になっています。
長年続いてきたネット文化と2020年代の生成AIが組み合わさったことも、この作品の大きな特徴です。
作者は「やじゅまん」・YAJU-MCとは?
INMU KINGを投稿したのは「やじゅまん」という動画投稿者です。本人のXでも2026年8月10日に作品の公開を告知しています。
一方、動画タイトルには「INMU KING / YAJU-MC」と記載されています。
初めて見た人には少し分かりにくいところですが、確認できる事実としては作品上の名義が「YAJU-MC」、動画の投稿者が「やじゅまん」です。「YAJU-MC=やじゅまんの別名」とまでは断定せず、この2つは分けて考えるのが正確でしょう。
制作費は5万円弱?作者が明かしたAI制作の裏側
作者のやじゅまんは、INMU KINGの制作費についてもSNSで触れています。
本人の説明によると、動画部分にかかった費用は約4万円で、楽曲生成AI「Suno」などを含めると5万円弱だったとのことです。
生成AIを使えば簡単に作れるようにも見えますが、実際には複数のサービスを利用し、費用もかけながら一本のMVとして仕上げられていたことが分かります。
そのためINMU KINGについては「AIが勝手に作った動画」というより、生成AIを制作手段として活用して作られた作品と表現する方が実態に近そうです。
INMU KINGの元ネタは?田所浩二とは誰なのか
INMU KINGを理解するうえで外せないのが、長年ネット上で使われてきた「淫夢」関連のミームです。
元をたどると、成人向け作品に出演した人物やセリフ、映像などがネット上で切り抜かれ、ニコニコ動画などでMADや「BB素材」と呼ばれる加工用素材として使われるようになりました。
その中でも特に有名になった人物が「野獣先輩」です。
INMU KINGでは野獣先輩を文字通り「淫夢の王」のような存在として描き、過去の語録や人物、ネット上で長年蓄積されたネタを楽曲と映像に盛り込んでいます。
そのため元ネタを知らない人には不思議なAIミュージックビデオに見えますが、このネット文化を長く見てきた人にとっては、歴代の人物やネタが集まる「オールスター作品」のようにも楽しめる内容になっています。
「田所浩二」は野獣先輩の本名ではない
INMU KINGで特に耳に残る名前の一つが「田所浩二」です。
ここは誤解されやすいところですが、野獣先輩と呼ばれる出演者の本名が「田所浩二」と確認されているわけではありません。
「田所」は元となった作品内で使われる名前ですが、「田所浩二」というフルネームは後にネット上で広まった呼称です。
そのためネットミームの文脈では「野獣先輩=田所浩二」のように扱われることがありますが、実在する出演者の確認された本名として紹介するのは正確ではありません。
MVには歴代の関連人物を思わせるキャラクターが登場
INMU KINGが昔からのネットユーザーに刺さった理由の一つが、関連人物を思わせるキャラクターの多さです。
中心となる野獣先輩だけではなく、ネット上でTDN、TNOK、MUR、KMR、KBTITなどの呼称で知られる人物をモチーフにした表現が登場します。
なお、KBTITは名前だけを見ると漫画家の久保帯人さんと混同されることがありますが、久保さん本人を意味するものではありません。ネット上で別の人物に付けられた呼称です。
映像の背景や衣装、動きにも過去のネタを連想させる要素が多数盛り込まれています。
INMU KINGは曲だけで完結する作品というより、長い年月をかけてネット上で派生してきたミームを一つのMVに詰め込んだ作品と見ることができます。
INMU KINGはなぜ流行った?AIだけではない中毒性
INMU KINGが広がった理由として、まず挙げられるのが楽曲のキャッチーさです。
元ネタを詳しく知らなくても覚えやすいフレーズが繰り返され、サビに合わせた特徴的なダンスもあります。
本家動画の投稿後には「歌ってみた」「踊ってみた」「演奏してみた」「アレンジ」などの派生作品も次々と登場しました。
ニコニコ動画版は2026年9月18日に300万再生を突破。8月10日の公開から約40日で300万回に到達したことになります。
さらに作者は8月19日、ニコニコ動画とYouTubeで同じ日に100万再生へ到達したことも報告しています。ニコニコ発の作品でありながら、YouTubeなど別のプラットフォームへ広がった点も今回の特徴です。
昔のネットミームを最新のAI映像で再構築
もう一つ大きいのが映像です。
淫夢関連の動画文化は、人物を切り抜いた「BB素材」などを組み合わせる独特の編集文化とともに発展してきました。
INMU KINGでは、その文化を受け継ぎながら生成AIを使った新しい映像表現が加わっています。
昔からネット上で知られてきた人物を思わせるキャラクターが、まるで現代に新しく撮影されたミュージックビデオの出演者のように動く。その奇妙さと映像の完成度が組み合わさったことも、拡散を後押ししたと考えられます。
「踊ってみた」で元ネタを知らない人にも届きやすく
公開後にはINMU KINGの振り付けを再現した「踊ってみた」動画も登場しています。
さらに歌唱、演奏、アレンジなど多様な二次創作が生まれ、曲そのものを使って遊ぶ流れへ発展しました。
ここが今回の流行で興味深いところです。
元々はかなりディープなネット文化から生まれた題材ですが、「曲が耳に残る」「ダンスを真似できる」「映像だけでも楽しめる」という要素が加わったことで、元ネタを知らない人にも届きやすくなったと考えられます。
INMU KINGは20年以上続くネット文化の2026年版ともいえる
野獣先輩をはじめとする淫夢関連のネットミームは、2026年に突然生まれたものではありません。
ニコニコ動画などを中心に長期間にわたってMAD、音MAD、BB素材、語録などが作られ、その時代のネット文化や動画技術に合わせて姿を変えてきました。
INMU KINGが興味深いのは、そこに生成AIという2020年代らしい技術が加わったことです。
元ネタを知る人には懐かしい要素が詰まった作品であり、元ネタを知らない人にとってはダンスや楽曲から入る新しいネットコンテンツにもなっています。
もちろん題材の出発点は成人向け作品であり、誰にでも勧められるコンテンツとは言いにくい面があります。一方、元の作品から切り離された言葉や映像が長期間にわたってネット上で改変され続け、2026年には生成AIを活用したミュージックビデオとして再び広がったという経緯は、日本のネット文化の変化を見るうえでも興味深い現象です。
「INMU KINGって結局何?」という人は、まず「昔から続く野獣先輩などのネットミームを、やじゅまんが生成AIなどを活用して2026年のMVとして再構成した作品」と考えると分かりやすいでしょう。元ネタを知らなくても曲やダンスを楽しめる作りになったことが、今回の広がりにつながったのかもしれません。