宅配ピザチェーン「ナポリの窯」をめぐり、ここ数年で経営体制が目まぐるしく変化しています。
創業者の急逝後、長男が社長に就任。その後はエックスモバイルの木野将徳氏が経営に参画し、YouTuberのヒカルさん、上場企業の太洋物産、堀江貴文さんまで加わりました。
ところが2026年9月30日、太洋物産はわずか約3か月で宅配ピザ事業から撤退し、いちごホールディングスの全株式をAI DININGへ6億5000万円で譲渡しました。一方、売却翌日の10月1日の公式発表でもヒカルさんは「副社長」と紹介されています。
なお、一連の問題では当事者それぞれの主張が食い違っている部分があります。以下では、会社の適時開示や公式発表で確認できる事実と、ヒカルさんら当事者が動画などで説明している内容を分けて整理します。
ナポリの窯のお家騒動は何が起きている?
最初に整理すると、今回の騒動は「ヒカルさんがナポリの窯に入って問題が起きた」という単純な話ではありません。大きな転換点は2024年11月の創業者・宮下雅光氏の急逝です。
その後、事業承継や株式をめぐる交渉、新経営陣の参画、元社員・元役員との係争、労務管理をめぐる告発、経営陣の交代、上場企業による買収と短期間での売却などが重なりました。
- 創業者の急逝と事業承継
- 長男・宮下貴弘氏の社長就任
- エックスモバイルによる子会社化
- 株式取得をめぐる交渉
- ヒカルさんの経営参画
- 労務管理をめぐる告発と会社側の反論
- 元社員・元役員との係争
- ヒカルさん側による「スパイみたいなのがいた」との説明
- 現場叩き上げの大塚康平氏が社長就任後、連絡がつかなくなったとの説明
- 太洋物産による完全子会社化と堀江貴文氏の参画
- 約3か月後に太洋物産が撤退
- 木野将徳氏が代表を務めるAI DININGが6億5000万円で取得
短期間に複数の問題が重なっているため、「お家騒動」として受け止められている状況です。
ナポリの窯はどう始まった?創業から騒動まで
ストロベリーコーンズから「ナポリの窯」へ
ナポリの窯につながる会社は、1983年に仙台で設立された日本シンク株式会社から始まりました。1986年に宅配ピザ店「ストロベリーコーンズ」を開店し、その後フランチャイズ展開を進めます。
2005年には東京都練馬区に「ナポリの窯」1号店をオープン。本格的なナポリピッツァを宅配するブランドとして展開されました。
2024年11月に創業者・宮下雅光氏が急逝
現在につながる大きな転換点が、創業者・宮下雅光氏の死去です。
エックスモバイル側の公式説明によると、宮下氏は生前、同社代表の木野将徳氏に「まずは少額出資で経営に参画してもらい、自分が2~3年後に引退するまで一緒に経営していこう」という趣旨の提案をしていたとされています。
これはエックスモバイル側が公表した経緯であり、当時の会話そのものが第三者によって確認されたという意味ではありません。
創業者の息子・宮下貴弘氏はどうなった?
創業者の長男が宮下貴弘氏です。父の死後、2025年1月にエックスモバイルがいちごホールディングス株式の過半数を取得した際、宮下氏は代表取締役社長に就任しました。
木野氏が取締役会長となり、宮下氏が現場を統括する体制が公式に発表されています。そのため当初から「創業家が完全に経営から外れた」という形ではなく、宮下氏と木野氏がともに経営へ関わる体制でした。
宮下貴弘氏は以前から別会社も経営
宮下氏は、父親の会社だけでキャリアを積んできた人物ではありません。過去には株式会社ネクストステージの代表取締役として、Web制作やインターネット関連事業などを手掛けていたことが当時のプレスリリースなどから確認できます。
一方、2026年現在の新たな勤務先や活動について、本人が広く公表している情報は多くありません。本人と確実に確認できるInstagramやXなどの公開SNSも確認できていません。
「35%の株に12億円を要求」は本当?
この騒動で注目されているのが「約35%の株式に12億円」という話です。
ヒカルさん側は、創業家側が保有していたとされる約35%の株式をめぐる交渉で、12億円を提示されたという趣旨の説明をしています。
一方、12億円という金額について、交渉資料や契約書など第三者が確認できる資料は公開されていません。そのため「宮下貴弘氏本人が35%に12億円を要求した」と確定した事実として扱うことはできず、現時点ではヒカルさん側から語られている内容として見る必要があります。
同様に、最終的な取得金額などについても、当事者側の説明と公表資料で確認できる範囲を分けて考える必要があります。
2025年11月、ヒカルがナポリの窯の経営に参画
2025年11月、ヒカルさんとサムライパートナーズ代表の入江巨之氏が、いちごホールディングスの取締役に就任しました。
ヒカルさんは単なる広告キャラクターではなく、商品開発、店舗改革、デジタルマーケティングなどにも関わる形で経営へ参画。会社側は参画後の注文増加なども発表しています。
ただし、注文数などの実績については会社側が発表した数値として捉える必要があります。
ヒカルさんの知名度はブランドを広く知ってもらう大きな力になる一方、会社内部の問題まで「ヒカルのナポリの窯」として注目されやすくなる側面もありました。
現場叩き上げの大塚康平氏とは?
今回の騒動でもう一人重要なのが、大塚康平氏です。
大塚氏は2007年にアルバイトとしてストロベリーコーンズへ入り、店舗の現場からキャリアを積み上げてきた人物です。過去にはナポリの窯の店長として取材を受けた記録もあり、その後は取締役へ昇進しました。
2026年7月には代表取締役社長に就任。アルバイトから約19年を経て会社トップまで上がった、まさに現場叩き上げの人物でした。
9月に「大塚さんと連絡がつかない」と説明
状況が大きく変わったのが2026年9月です。
Nontitleで予定されていたヒカルチームとひろゆきチームの売上対決は、元社員・元役員との係争中の事案などを理由としてヒカル側が辞退しました。
その後の説明動画では、入江氏側から、ナポリの窯側の窓口として関わっていた「大塚さんと連絡がつかなくなった」という趣旨の説明も出ています。
ただし、「連絡がつかない」ことと「退職した」ことは同じではありません。大塚氏本人から事情を説明した公式発信や、退職理由を示す会社発表は現時点で確認できていません。
確認できるのは、9月にヒカル・入江氏側からこうした説明があり、10月1日のストロベリーコーンズ公式発表では秋山舜氏が代表取締役社長として記載されていることです。大塚氏がいつ、どのような経緯で代表を離れたのかは今後の続報を待ちたいところです。
ヒカルが語った「スパイ」とは?
ヒカルさんは一連の問題を説明する中で、社内に「スパイみたいなの」がいたという趣旨の発言をしています。
ただし、これはヒカルさん側の表現です。誰を指しているのか、具体的にどの情報が外部へ渡ったとみているのかについて、公表資料から確認できる範囲は限られています。
特定の取締役や社員が情報漏洩を行ったことが公的に認定された事実は確認できません。
また、大塚氏と連絡がつかなくなったという話と「スパイ」の話を結び付ける根拠も確認できないため、「大塚氏=スパイ」などと捉えることはできません。
労務問題をめぐる内部告発も発生
2026年3月には、ナポリの窯の労働環境について労働基準法違反の疑いがあるとする内部告発がSNSで拡散されました。
これに対して会社側は、時系列の異なる内容や一部資料のみが切り取られている可能性があるとし、事実関係を社内外で調査すると説明しました。
その後「ナポリの窯ユニオン」を称する団体も登場しましたが、会社側は2026年5月時点で、社員・アルバイト・FC関係者の加入を確認しておらず、正式な団体交渉の申し入れも受けていないとの見解を公表しています。
したがって、現段階で「ナポリの窯で違法な労働が行われていた」と確定事項として扱うことはできません。確認できるのは、労務管理をめぐる告発があり、会社側も反論・調査を行ったというところまでです。
2026年6月、ホリエモンと上場企業が参画
2026年、さらに大きな資本関係の変化が起こります。東証スタンダード上場の太洋物産がいちごホールディングスを完全子会社化しました。
6月30日には事業戦略発表会が開かれ、堀江貴文さんが太洋物産の取締役に就任。ヒカルさんと堀江さんも同じイベントに登壇しました。
当時は、ヒカルさんの発信力やマーケティング、堀江さんの事業・飲食分野での知見、太洋物産の事業基盤などを組み合わせて成長を目指す構図が打ち出されていました。
ところが約3か月で太洋物産がナポリの窯を売却
ところが2026年9月30日、状況は再び大きく変わります。
太洋物産は、いちごホールディングスの全251株をAI DINING株式会社へ6億5000万円で譲渡し、宅配ピザ事業から撤退することを決定しました。
太洋物産がいちごHDを完全子会社化したのは7月1日。約3か月という短期間での撤退となります。
太洋物産の開示では、事業計画と実績を精査する中で、当初計画を上回る費用支出や固定費負担など複数の経営上の要因を踏まえ、経営資源を他事業へ振り向ける判断をしたことが示されています。
そのため「特定の一人が辞めたから売却した」など、単一の理由にまとめるのは適切ではありません。
売却先AI DININGの代表は木野将徳氏
今回の売却で注目されるのが譲渡先です。
AI DININGの代表を務めるのは、創業者の死後からナポリの窯の経営に関わってきた木野将徳氏です。
流れだけを見ると、木野氏らが経営へ参画し、ヒカルさんが加わり、太洋物産が完全子会社化した後、約3か月で「木野氏が代表を務める会社」が取得したことになります。
ただし、買収主体や資金関係などは以前と同一とは限らないため、「木野氏に会社が戻った」「買い戻した」とまで単純化するのは避けた方がよさそうです。
現在のナポリの窯はどうなっている?
2026年10月1日現在、ナポリの窯自体が終了したわけではありません。同日には東京都国立市に「ナポリの窯 国立矢川店」が新規オープンしています。
ストロベリーコーンズの公式発表では、代表取締役社長は秋山舜氏。さらに同じ発表には「ナポリの窯は、YouTuberヒカルが副社長を務めています」と明記されています。
つまり、太洋物産の撤退=ヒカルさんの撤退ではありません。少なくとも売却翌日の10月1日時点で、ヒカルさんがナポリの窯から離れたことを示す発表はなく、公式リリースでも引き続き副社長として紹介されています。
ヒカルは今後もナポリの窯に関わる?
ここからは現在確認できる事実を踏まえた考察です。
売却翌日の公式発表でもヒカルさんの肩書きが残っていることから、少なくとも現時点では新体制でも関係が継続しています。
一方、今後どの程度まで経営実務へ関わるのか、商品開発やマーケティングを中心とした役割になるのかについては、まだ公式に詳しく示されていません。
新店舗ではインフルエンサーを店舗運営に起用する取り組みも行われており、ヒカルさんの得意とする発信・マーケティングとの親和性は高そうです。ただし、今後の役割については新体制からの発表を待つ必要があります。
ホリエモンはナポリの窯から離れる?
堀江貴文さんについては、ヒカルさんとは立場が異なります。
堀江さんが取締役に就任したのはナポリの窯そのものではなく、親会社となった太洋物産です。
太洋物産がいちごHDの全株式を手放したため、太洋物産を通じた堀江さんとナポリの窯との資本上の接点はなくなりました。
一方、堀江さん自身が太洋物産を離れたわけではありません。9月30日には、太洋物産で社外取締役から業務執行取締役へ職掌が変更されています。
現時点で、AI DINING傘下となったナポリの窯について堀江さんが引き続き直接経営に関与するという公式発表は確認できません。
ヒカルとホリエモンは今後どう関わる?
2026年6月時点では「ヒカル×ホリエモン×ナポリの窯」という組み合わせが大きく打ち出されていました。しかし9月30日の売却によって、企業としての関係は変化しました。
現在は、ヒカルさんはAI DINING傘下となったナポリの窯で副社長として紹介され、堀江さんはナポリの窯を売却した太洋物産で業務執行取締役を務める、という別々の立場です。
もちろん、これだけで2人の個人的な関係や今後のコラボが終了したとは言えません。
今後、堀江さんがAI DININGやナポリの窯と新たな形で関わるのか。それともヒカルさんはナポリの窯、堀江さんは太洋物産で、それぞれ別の事業を進めるのか。ここは続報で注目したいポイントです。
ナポリの窯のお家騒動は何が問題だったのか
創業者の急逝で事業承継が複雑になった
創業者自身は木野氏に経営参画を求めていたとエックスモバイル側は説明していますが、その途中で急逝しました。創業家、新たな経営陣、既存株主など複数の関係者がいる中で、株式と経営を整理する必要が生じました。
株式・経営・現場の問題が同時進行した
株式取得をめぐる交渉だけでなく、元社員・元役員との係争、労務問題、経営陣の交代などが同時期に進みました。経営体制や親会社まで短期間に変化したことで、外部から非常に分かりにくい状態になったと考えられます。
ヒカルの知名度がメリットにもリスクにもなった
ヒカルさんの参画によってナポリの窯の知名度や発信力は高まりました。一方、会社内部の問題や当事者間の対立まで広く知られるようになった側面もあります。
経営体制が短期間で大きく変化した
創業者の死去後、経営陣や資本関係が何度も変化しています。店舗で働く社員やFCオーナーにとっても、今後の方針が見えにくくなる要因になり得ます。
ナポリの窯のお家騒動はどうすれば収束する?
ここは現状からの考察になります。
重要なのは、過去の対立と今後のブランド運営をできるだけ切り離すことではないでしょうか。
元社員・元役員などとの法的な問題が残っている場合は、司法手続きや代理人間で整理する。労務管理について問題が確認された場合は改善し、可能な範囲で調査結果を説明する。そして新体制では、誰が経営責任を持ち、ヒカルさんがどの領域を担当するのかを明確にすることが、ブランドへの安心感につながりそうです。
ナポリの窯には長年働いてきたスタッフやFCオーナー、利用してきた顧客がいます。経営上の対立と店舗の商品・サービスを切り分け、安定した運営体制を示せるかが今後のポイントになりそうです。
今後の続報で注目したいポイント
2026年10月2日時点では、まだ分かっていないことも多くあります。
- AI DININGはナポリの窯を今後どのように経営するのか
- 木野将徳氏は新体制でどのような役割を担うのか
- 秋山舜新社長はどのような人物なのか
- 大塚康平氏が代表を離れた詳しい経緯
- 大塚氏本人から説明が出るのか
- 宮下貴弘氏と現在の会社との関係
- 元社員・元役員との係争はどう決着するのか
- 「35%・12億円」をめぐり別の当事者から説明が出るのか
- ヒカルさんの「スパイ」発言について具体的な事実が明らかになるのか
- ヒカルさんは副社長を続けるのか
- 堀江貴文さんが売却後のナポリの窯に関与するのか
- 太洋物産の短期間での撤退について追加説明が出るのか
創業者の急逝から始まった一連の動きは、2026年9月30日の売却で一つの大きな区切りを迎えました。ただし、ナポリの窯自体は営業を続け、新店舗もオープンしています。
今後は「お家騒動」の行方だけでなく、AI DINING傘下の新体制でブランドを安定させられるのか、ヒカルさんと堀江さんがそれぞれどのような立場で事業に関わっていくのかにも注目したいところです。