猪俣周杜さんの契約解除理由として、STARTO ENTERTAINMENTが示した「専属契約上の重大な違反」。具体的に何を指すのでしょうか。
現時点で違反した契約条項は公開されていません。確認できるのは、事務所が本人への聞き取りなどを行い、刑事処分とは別に契約解除を判断したということです。
旧ジャニーズ時代の処分例も振り返りながら、芸能事務所で問題になる行為と、一般企業との違いを整理します。
猪俣周杜の「重大な違反」とは?公表されている内容
STARTO ENTERTAINMENTは2026年10月1日、猪俣周杜さんとの専属契約を9月30日付で解除したと発表しました。猪俣さんはtimeleszを脱退し、グループは7人で活動を継続するとしています。
テレビ朝日の報道によると、事務所は本人への聞き取りや事実関係の確認を行い、協議を重ねた結果、専属契約上の重大な違反が認められると判断しました。
発表全文を掲載した日刊スポーツによると、事務所は契約に定める解除事由に該当すると判断し、9月29日の取締役会で解除を決定しています。
簡単に言えば、事務所が確認した事実について「契約を終了する条件に当たる」と判断したということです。
ただし、具体的な契約条項や、その条項に当てはめた事実の詳細は公開されていません。「重大な違反」という表現だけで、報道されていない別の問題があったと考えることはできません。
出典:STARTO ENTERTAINMENTの契約解除に関するお知らせ、日刊スポーツの発表全文掲載記事
刑事処分の確定前に契約解除を判断した理由
猪俣さんについては、知人女性にけがをさせた疑いで9月に逮捕され、25日に釈放されたと報じられています。一方、10月1日の発表時点では、刑事上の処分は確定していないと説明されています。
ここで分けて考えたいのが、刑事上の判断と契約上の判断です。
刑事事件では犯罪が成立するか、処罰するかが問題になります。契約では、契約上の義務に違反したか、解除条件に当たるかなどが問題になります。
事務所は、今回の解除を刑事処分とは別に専属契約に基づいて判断したと説明しています。つまり、契約解除の発表は、犯罪の成立を裁判所が認定したという意味ではありません。また、「刑事処分とは別」という説明は、今回の事件とは無関係な別の違反があったことを示すものでもありません。
なお、事務所は最終判断を他のメンバー7人に委ねたものではないとも説明しています。残るメンバーが処分を決めたと受け取るのは適切ではありません。
出典:テレビ朝日の契約解除報道
旧ジャニーズでは何が問題になった?過去の処分例
旧ジャニーズ時代には、飲酒に関する問題や、繰り返された事務所のルール違反などが処分につながった例があります。
ただし、活動自粛、厳重注意、契約解除は異なる対応です。以下の例すべてが「重大な契約違反」という同じ理由で処分されたわけではありません。
田中聖:度重なるルール違反で契約解除
2013年、旧ジャニーズ事務所は、当時KAT-TUNのメンバーだった田中聖さんとの専属契約を9月30日付で解除したと発表しました。
事務所が示した理由は、度重なる事務所のルール違反です。デイリースポーツは、再三の厳重注意にもかかわらず態度を改めなかったことから、解除に至ったと報じています。
当時は、事務所に無断で飲食店経営に関わっていたことなども背景として報じられました。ただし、これは報道上の説明であり、具体的な契約条項が公開されたわけではありません。
この例から分かるのは、犯罪の有罪判決だけが契約解除のきっかけになるわけではないということです。事務所との取り決めや、注意後の対応も問題になり得ます。
内博貴:当時18歳での飲酒を受け活動自粛
内博貴さんは2005年、当時18歳での飲酒を受け、無期限の活動自粛となりました。その後は研修生として活動を再開し、舞台などを経て復帰しています。
日刊スポーツの復帰時の報道でも、18歳当時の飲酒と、事務所による無期限の活動自粛が確認できます。
ここで注意したいのは、内さんのケースを「契約解除の例」として扱わないことです。芸能活動が止まるほど重い対応でも、事務所との契約が終了するとは限りません。
出典:日刊スポーツ「元NEWS内博貴ソロで3年半ぶりに歌手」
小山慶一郎・加藤シゲアキ:同じ飲み会でも対応が違った
2018年には、NEWSの小山慶一郎さんと加藤シゲアキさんが、当時19歳の女性が同席した飲み会をめぐり、事務所から処分を受けました。
テレビ朝日が掲載した事務所発表によると、女性は年齢を20歳と伝えており、2人は当日、20歳未満の参加者がいるとは認識していなかったとされています。
一方、事務所は、小山さんが掛け声に合わせて飲み物を飲むよう促していたことを認めました。女性の年齢にかかわらず、こうした行為は特に報道番組に携わる立場として慎むべきだと説明しています。
主体的に飲み会を催した小山さんは一定期間の活動自粛。同席して制止しなかった加藤さんは、厳重注意と書面での反省を求められました。
同じ出来事でも、本人がどのように関わったかによって対応が分かれた例です。「その場にいた全員が同じ処分になる」とは限らないことが分かります。
一般企業と芸能事務所の違いは?信用と契約から考察
過去の例を踏まえると、芸能事務所では、法律上の問題に加えて、事務所のルールや活動上の責任に反する行為が問題になり得ます。
ただし、旧ジャニーズ時代のルールと現在のSTARTOの契約が同じとは限りません。過去の処分例から、今回の猪俣さんが違反した条項を特定することもできません。
一般企業も「重大」と判断するだけで解雇できるわけではない
一般企業では、会社のお金の不正使用や重要な情報の漏えいなどが、就業規則との関係で問題になり得ます。ただし、具体的な行為が処分の理由となるかは、規則の内容や個別の事情によります。
厚生労働省が掲載する労働契約法の第15条・第16条では、懲戒や解雇に客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない場合は無効になると定められています。
そのため、雇用されている従業員への処分では、就業規則の内容、確認された行為、処分の重さなどを踏まえる必要があります。
出典:厚生労働省「労働契約法」
芸能人は本人の信用が仕事に結びつきやすい
ここからは、芸能活動の仕組みを踏まえた考察です。
芸能人は、歌や演技の能力だけでなく、本人の名前や姿、発信への信頼によって仕事を得る場合があります。公正取引委員会の指針でも、芸能事務所は実演家を育成し、氏名や肖像などが持つ顧客吸引力の価値を高める役割を担うと説明されています。
このため、本人の行為による信用の問題が、広告、番組出演、イベント、グループ活動などに広がりやすいと考えられます。
例えば出演者の交代が必要になれば、制作側は撮影や編集の調整を迫られる可能性があります。グループ活動では、他のメンバーの予定にも影響が及ぶかもしれません。
一般企業でも信用は大切ですが、芸能活動では本人の信用が仕事の価値に直結しやすい。その点が、契約を継続するかどうかの判断に影響する可能性はありそうです。
ただし、今回どの取引に影響が出たのか、具体的な損害があったのかは、確認できた発表では明らかにされていません。
専属契約と会社員の雇用契約は同じではない
もう一つの違いは、契約の形です。公正取引委員会の指針では、芸能事務所と実演家の契約には、業務委託や業務提携など、さまざまな法的性質があると整理されています。
「事務所に所属している」というだけで、会社員と同じ雇用契約だとは言えません。一方、労働者に当たるかどうかは働き方の実態も関係するため、名称だけで判断することもできません。
また、芸能人の信用が重要だからといって、事務所が自由に契約違反を決めてよいわけでもありません。契約内容の明確さや説明は重要で、今回の解除が法的に妥当かどうかを、公開された発表だけで結論づけることはできません。
出典:公正取引委員会「実演家等と芸能事務所等との取引の適正化に関する指針」
猪俣さんの「重大な違反」は、事務所が専属契約に基づき解除を判断したことを示しています。過去の例からは、行為の内容や関与、注意後の対応によって処分が異なることが分かります。具体的な条項が公表されていない部分は憶測で埋めず、確認できる事実と考察を分けて受け止めたいところです。
※本記事の猪俣さんに関する記述は、2026年10月1日の発表・報道に基づいています。