東京都文京区が送る国民健康保険料の督促状が、思わぬ議論を呼んでいます。
黒い封筒に「今すぐ開けてください!」。カラフルな模様や顔文字、15個もの目が描かれたものまであり、役所の郵便物とは思えないインパクトです。
「目立つし、むしろいいアイデアでは?」と思う人もいるでしょう。一方で「不気味」「不謹慎」という批判も。そもそも督促状の封筒には色やデザインの決まりがあるのでしょうか。
結論からいえば、督促状の封筒を白や茶色にしなければならないという全国一律の法律上の指定は確認できません。ただし、督促の手続きには法律上のルールがあり、行政文書としての配慮も問われます。
文京区の督促状はなぜこんなに派手?
文京区は2019年度から、国民健康保険料の督促状に目立つデザインの封筒を採用してきました。
報道で紹介されたのは、黒地に「至急開封」「今すぐ開けてください!」と記したものや、「開封」の文字を何度も繰り返したもの。封筒いっぱいに目を描いたデザインもあり、まるで漫画やネット動画の世界です。
区がこうした工夫を始めたのは、若い世代の納付率向上が課題だったため。アニメやネット動画のコメント表示などを参考に、まず封筒を開いてもらうことを目指したと説明しています。
払い忘れに気づかないまま督促状も見落とせば、延滞金や滞納処分につながる可能性があります。区としては、そんな事態を防ぎたかったわけです。
収納率は約88%から約96%に
しかも、取り組み開始前後の数字には大きな変化があります。
FNNプライムオンラインなどによると、文京区の国民健康保険料の収納率は、導入前の約88%から2025年度には約96%へ上昇。納付に関する相談件数も増えたといいます。
約8ポイントの改善は確かに目を引きます。ただし、これは区全体の収納率の推移であり、封筒を変更したことだけが原因とは証明されていません。徴収方法や納付環境など、ほかの要因も考えられます。
それでも「読まれない通知を、どう読んでもらうか」という問題に向き合った点は、興味深い取り組みです。
督促状の封筒に色やデザインの決まりはある?
今回の騒動で気になるのは「こんな派手な督促状を送って、法律上問題ないの?」という点でしょう。
国民健康保険料の督促状について、封筒を白色にする、赤色は禁止するといった全国共通の色指定は確認できません。黒い封筒や目立つ模様を使ったというだけで、直ちに違法になるわけではありません。
実際、テレビ朝日の取材に答えた弁護士も、今回のデザインについて、確認した限りでは直ちに法律違反となるものではないとの見解を示しています。
一方、封筒の色に決まりがないことと、督促状にルールがないことは別です。
法律が定めるのは督促の手続き
地方自治法第231条の3は、自治体の歳入について、納期限までに納付されない場合の督促などを定めています。国民健康保険料についても、関係法令や自治体の条例に沿った手続きが必要です。
つまり、重要なのは適切な相手に、適切な手続きで督促を行うこと。封筒の色だけを見て適法・違法を決めることはできません。
また、外側から滞納の事情が周囲に知られたり、受け取った人に過度な不安を与えたりしないかという配慮も大切でしょう。これは色の規制とは別の、行政文書のあり方に関する問題です。
なお、督促状が届いたからといって、その場で直ちに財産が差し押さえられるわけではありません。文京区の公式サイトでは、督促後も納付が確認できない場合、財産調査を経て差し押さえなどを行うことがあると案内しています。
納付済みなのに行き違いで督促状が届く場合もあります。区によれば、納付の確認には約2週間かかることがあるそうです。
なぜ批判された?「効果がある」と「適切」は別問題
では、なぜ文京区の封筒はここまで批判されたのでしょうか。
理由の一つは、受け取る人の状況がさまざまだということです。単なる払い忘れの人もいれば、失業や病気などで納付が難しい人もいます。
そんなときに、時限爆弾を思わせる表示や大量の目が描かれた封筒が届いたら、面白いと感じる人がいる一方で、怖いと感じる人もいるでしょう。
さらに、あまりに奇抜だと、役所からの正式な通知ではなく、いたずらや怪しい郵便物だと思われる可能性もあります。開封してもらうための工夫が、逆に不信感を招くというわけです。
文京区の国保年金課は批判を受け、高齢者やさまざまな事情を抱える人への配慮が足りなかったと反省を表明。今後は受け取る人への配慮を重視するとしています。
ただ、派手な封筒そのものを全否定する必要もないと思います。
重要な通知がほかの郵便物に埋もれないよう、色や文字を工夫することには意味があります。「重要」「必ず開封してください」を大きく表示するだけでも、目に留まりやすくなるかもしれません。
問題は、どこまで目立たせるか。相手を怖がらせず、きちんと読んでもらえるデザインを探る余地はありそうです。
今回の文京区の取り組みは、行政にも柔軟な発想が必要だと感じさせる一方、公共の通知には民間広告とは違う配慮が求められることも示しました。
封筒の色が問題なのではなく、受け取る人にどう伝わるか。収納率という数字だけでなく、その点まで含めて評価したいところです。
