東京女子医大はなぜ赤字85億円に?黒字転換の裏側と経営危機の現在

東京女子医科大学が、深刻な経営危機から立ち直ろうとしています。

2024年度には約85億円の経常赤字を計上。「2年で潰れる」との声まで出た名門大学ですが、2026年7月には東京女子医大病院の月次収支が黒字に転じたと報じられました。

なぜ日本有数の大学病院がここまで追い込まれたのでしょうか。医療事故や元理事長の不祥事だけでなく、医師・看護師の退職と病院経営の仕組みから、その理由を整理します。

目次

東京女子医大はなぜ赤字85億円に?経営危機の原因

2024年度の学校法人・東京女子医科大学の経常収支差額は、マイナス84億9,400万円。大学が公表した決算資料による確定値です。2022年度から3年連続の経常赤字となりました。

ただし、この約85億円は大学法人全体の赤字であり、東京女子医大病院だけの赤字ではありません。

2014年の医療事故と特定機能病院の承認取り消し

経営が揺らぐ大きな転機の一つが、2014年に東京女子医大病院で起きた2歳男児の死亡事故です。鎮静薬プロポフォールの投与をめぐって医療安全管理体制が問われ、2015年には「特定機能病院」の承認が取り消されました。

実は同病院は、2001年の医療事故を受けて一度承認を取り消され、2007年に再承認された経緯があります。2015年の取り消しは二度目でした。

患者からの信頼が揺らいだことは、大学病院の経営にも影響しました。ただし、現在の経営危機をこの事故一つで説明することはできません。

人件費削減が医療現場を苦しめた

東京女子医大は過去に経費削減などで収支を改善した時期がありました。公式資料によれば、2019年度から2021年度までは経常黒字です。

ところが、岩本絹子元理事長の体制下では、賞与の削減や昇給の抑制などをめぐり職員の反発が強まり、医師や看護師の退職が問題になりました。

病院では、人件費を削ればそのまま利益が増えるとは限りません。医師や看護師が不足すれば、病床が空いていても患者を受け入れられず、診療収入が減ることもあります。

大学自身も、人員削減が医療施設の運営に支障を生じさせたことを財務健全化資料で認めています。経費を抑えようとして、収益を生む力まで弱めてしまったのです。

元理事長の逮捕と補助金不交付

2025年1月には、岩本絹子元理事長が新校舎建設工事をめぐる背任容疑で逮捕され、その後起訴されました。刑事事件については、起訴内容と有罪確定を混同しないことが大切です。

大学ではガバナンスの機能不全や、寄付金の受け入れと入学者選抜の公正性をめぐる問題も表面化。2024年度は私立大学等経常費補助金が全額不交付となりました。

前年度に約20億円あった補助金を失ったことは、収支悪化の大きな要因です。ただし、赤字85億円の全額が不祥事によって生じたわけではありません。

名門病院なのに赤字が膨らんだ理由は?

東京女子医大は、心臓血管外科をはじめとする高度な医療で知られてきました。では、実績ある大学病院がなぜこれほどの経営危機に陥ったのでしょうか。

収入の約85%を医療に依存していた

大学の公表資料によると、事業収入の約85%は医療収入です。つまり、病院の診療収入が落ちると、大学法人全体の財務に大きな影響が出ます。

2024年度の医療収入は前年度より約13億2,300万円増えました。それでもコロナ禍前の2019年度と比べると、約113億6,200万円少ない状態でした。

ここが重要です。収入が毎年減り続けていたわけではなく、回復し始めても、以前の規模には戻っていなかったのです。

病院は建物や医療機器の維持費、光熱費などの固定的な支出が大きい施設です。患者の受け入れが十分に回復しなければ、収支改善は容易ではありません。

病床があってもスタッフがいなければ使えない

医師や看護師の不足は、病床の稼働にも直結します。

たとえばベッドが空いていても、必要な人員を確保できなければ入院患者を受け入れられません。手術や検査を担当するスタッフが足りなければ、診療機能にも制約が生じます。

大学の事業報告書でも、人員不足に伴う病床の稼働制限が示されています。人を減らして支出を抑えた結果、収入を得る機会も失うという悪循環が起きていたのです。

東京女子医大はどうやって黒字転換した?2026年の現在

2026年10月21日、現代ビジネスは東京女子医大病院の月次経常収支が同年7月にわずかながら黒字に転じたと報じました。

再建の中心人物として紹介されたのが、心臓血管外科教授の新浪博氏です。元理事長体制に異議を唱えてきた医師の一人で、病院経営の立て直しに取り組んでいます。

徳洲会の元幹部を顧問に起用

再建に向けて注目を集めたのは、病院グループ「徳洲会」で事務総長を務めた能宗克行氏の起用です。

現代ビジネスによると、能宗氏は2026年4月から顧問に就任。過去に徳洲会をめぐる事件で業務上横領の有罪判決を受けた経歴があり、起用には理事会内でも反対意見があったと報じられています。

それでも起用された背景には、能宗氏が持つ病院経営の実務経験への期待がありました。

「コマンドセンター」で病床の使い方を改善

再建策として紹介されたのが、入退院や病床稼働状況を把握する「コマンドセンター」の導入です。

患者の入退院、病床の利用状況、手術件数などの情報を共有し、病院全体で患者を円滑に受け入れることを目指します。

ただし、これは患者を無理に早く退院させる仕組みではありません。医療の安全性と適切な診療を確保したうえで、限られた病床と人員を効率よく活用することが前提です。

また、2026年7月の月次黒字は、同年秋に導入する方針が報じられたコマンドセンターの本格運用より前の出来事です。黒字転換をこの仕組みだけの成果とするのは早計でしょう。

黒字転換とV字回復は同じではない

ここで気になるのが、東京女子医大はもう経営危機を脱したのか、という点です。

答えは、まだそう言い切れない、です。

2024年度の約85億円の赤字は学校法人全体の年間収支。一方、2026年7月の黒字は東京女子医大病院の1か月の収支です。対象も期間も異なります。

現代ビジネスでは2025年度も大幅な赤字だったとの関係者証言が紹介されていますが、経営再建の成果は今後の公式決算や月次収支の継続状況で判断する必要があります。

一度の黒字は明るい材料です。しかし、医療スタッフの確保、病床稼働の回復、補助金や大学への信頼回復など、取り組むべき課題はまだ残っています。

2023年度は許可病床1,190床のうち稼働752床

人員不足がどれほど深刻だったのかを示す数字もあります。東洋経済オンラインの2025年2月の取材によると、2023年度の東京女子医大病院は許可病床1,190床に対して稼働病床が752床でした。ベッドがあっても、実際に患者を受け入れる体制を整えられなかったことがうかがえます。なお、これは2023年度の数字であり、2026年現在の稼働病床数ではありません。

2026年には大学団体への復会も

収支だけでなく、組織運営の信頼回復も進められています。東京女子医大は2026年1月に改善計画の進捗を公表し、4月1日には日本私立大学連盟への復会を発表しました。大学は改善への取り組みが一定の評価を受けたと説明しています。ただし、復会は財務再建の完了を示すものではありません。

参考:東洋経済オンライン(2025年2月3日)、東京女子医科大学・改善計画書進捗報告(2026年1月30日)、東京女子医科大学・私大連復会のお知らせ(2026年4月)

まとめ:東京女子医大の本当の復活はこれから

東京女子医大の経営危機は、2014年の医療事故だけでも、元理事長の不祥事だけでも説明できません。

患者からの信頼低下、人員削減による診療機能への影響、コロナ禍前まで戻らない医療収入、補助金の不交付などが重なり、2024年度には約85億円の経常赤字となりました。

2026年7月の病院の月次黒字転換は、再建への一歩です。しかし、大学法人全体の通期黒字化が確認されたわけではありません。

かつての名門病院が本当に復活できるかどうか。その答えは、今後の決算だけでなく、医療現場が安心して患者を受け入れられる体制を取り戻せるかにもかかっています。

参考資料

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