2026年10月、中日のブライト健太さんとロッテの一條力真さんが相次いで現役引退を発表しました。ブライトさんはうつ病の診断を公表し、一條さんは眠れない夜や復帰への恐怖を自身の言葉で明かしています。
プロ野球では以前からイップスが知られていますが、うつ病やパニック障害など心の不調について選手が語った例もあります。病名を公表した人、病名を明かさず苦悩を伝えた人、引退後に当時の状態を振り返った人を分けて紹介します。
うつ病やパニック障害を公表した元プロ野球選手
確認できる事例にはブライト健太さん、小谷野栄一さん、長嶋一茂さんがいます。ただし、病気の経験と引退の直接の理由は必ずしも同じではありません。
ブライト健太|うつ病と診断され2026年に引退
中日のブライト健太さんは2026年10月15日、Instagramで現役引退を報告するとともに、春季キャンプから心身に不調があり、うつ病と診断されていたことを明かしました。4月22日から休養していたと説明しています。
ブライトさんは上武大学から2021年ドラフト1位で入団。2025年には自己最多の83試合に出場し、打率.259、3本塁打、20打点を記録しました。しかし2026年の一軍出場は5試合にとどまり、9月30日に戦力外通告を受けました。
本人は再び打席に立ちたかった思いを記し、発表時点でも病気と向き合っていること、今後については決まっていないことを伝えています。うつ病の診断は本人が明示していますが、引退に至るすべての事情を病気だけに帰することはできません。
小谷野栄一|パニック障害を公表し長く現役を続けた
日本ハム、オリックスでプレーした小谷野栄一さんは、2006年にパニック障害を経験しました。2018年の「ほぼ日刊イトイ新聞」の本人インタビューでは、息苦しさや吐き気、発作に悩みながら試合に出ていた当時の状況を具体的に語っています。
病気と向き合いながら現役生活を続け、2010年には打点王を獲得。2018年に引退するまで長くプレーしました。
ただし、2018年の引退会見で挙げたのは右肘などの痛みと、気持ちに体がついていかなくなったことでした。パニック障害を直接の引退原因とするのは正確ではありません。
長嶋一茂|引退直前にパニック障害を経験
ヤクルトと巨人でプレーした長嶋一茂さんは、1996年の引退直前、30歳ごろにパニック障害を発症したことを明かしています。
2019年に放送されたフジテレビ「直撃!シンソウ坂上」では、狭い空間に恐怖を覚え、車や新幹線、飛行機に乗ることが難しくなったことや、過呼吸に苦しんだ経験を語りました。
長嶋さんも戦力外通告を経て引退しています。パニック障害の経験は確認できますが、病気が唯一の引退理由だったとはいえません。闘病を広く語るようになったのは引退後です。
病名は公表せず、精神的な苦悩を語った選手
一條力真|眠れない夜と復帰への葛藤を告白
ロッテの一條力真さんは、2026年10月4日に球団から来季契約を結ばないと通告され、現役引退を決断しました。常総学院高校、東洋大学を経て2024年ドラフト3位で入団した右腕で、一軍登板は2025年の1試合のみ。2026年は二軍登板もありませんでした。
本人は同日のInstagramで、復帰へ向けて体を動かしていたものの、眠れない夜が続き、不安定になったり、ボールを握れなくなったりすることがあったと説明しています。
戻りたい気持ちと戻ることへの怖さの間で葛藤し、これ以上自分を追い込めないと考えて引退を決めたといいます。
ただし、一條さんはうつ病、パニック障害、イップスなどの診断名を公表していません。本人が語った苦悩をそのまま受け止め、病名を推測しないことが大切です。
引退後にうつ症状を振り返った選手
今浪隆博|甲状腺の病気が心身に影響
日本ハムとヤクルトでプレーした今浪隆博さんは、2017年に現役を引退しました。背景には甲状腺機能低下症による体調不良がありました。
引退後のインタビューでは、現役時代の精神的な落ち込みなどを振り返っています。2026年のスポーツメンタルコーチ資格講座のインタビューでも、甲状腺機能低下症を患ったことがメンタル面の不調の発端だったと語っています。
今浪さんのケースは、現役時代からうつ病という診断名を公表して引退したケースとは異なります。引退後に当時のうつ症状について説明するようになった例として捉えるのが適切です。
現在はスポーツメンタルコーチとして、選手時代のケガや病気の経験を生かしたサポートを行っています。公式YouTube「今浪隆博のスポーツメンタルTV」でも選手の心理面や野球に関する話題を発信しています。
プロ野球選手が心の不調を公表するケースは最近増えた?
ブライトさんと一條さんが2026年10月に相次いで自らの苦悩を伝えたことで、以前より心の不調を公表する選手が増えたと感じる人もいるでしょう。
しかし、プロ野球選手の精神疾患の発症件数や公表件数を年代別に比較できる十分な資料は確認できません。実際に病気が増えたのか、公表される機会が増えたのかを数字で断定することはできません。
SNSによって本人の言葉が届きやすくなった
かつては引退理由を知る機会が球団発表や新聞、テレビ取材に限られがちでした。現在は本人がInstagramなどを通じて、引退までの経緯や気持ちを直接伝えることができます。
ブライトさんと一條さんは、いずれもInstagramで本人の言葉による説明を行いました。発信手段の変化は、心の不調が可視化される背景の一つと考えられます。ただし、SNSの普及だけで公表傾向の変化を説明できるわけではありません。
イップスとうつ病などの精神疾患は同じではない
野球界では昔から、思いどおりに投球や送球ができなくなるイップスが知られてきました。ただしイップスには心理的な要素だけでなく運動制御に関わる要素もあり、うつ病やパニック障害と同一視できません。
成績不振、ケガ、戦力外通告といった事実から、本人が公表していない精神疾患を推測することも避けるべきでしょう。
同じ「心の不調」という言葉でも、ブライトさんのように診断名を公表した人、一條さんのように症状と葛藤を語った人、小谷野さんのように病気と付き合いながら長くプレーした人がいます。今浪さんのように引退後の経験を新たな仕事に生かしている人もいます。
それぞれの事情を混同せず受け止めながら、現役を退いた選手たちのこれからの歩みも見守りたいですね。
