2026年10月19日の「Lemino修斗.9」で、杉本静弥選手が披露した「死んだふり」が大きな話題になりました。
背後から首を絞められた杉本選手は、突然腕をだらりと下げて失神したような姿に。相手が技を解いた瞬間に動き出し、最後は判定勝利を収めています。
そこで気になるのが「死んだふりは反則ではないのか?」という疑問です。
結論からいうと、プロ修斗の公式ルールには「失神したふり」を名指しで禁じる規定は見当たりません。ただし、ショー的行為やマナー違反に関する規定はあり、どんな状況でも認められると断言はできません。
実際の試合展開と修斗の公式ルールを照らし合わせながら、この驚きの作戦を検証します。
杉本静弥の「死んだふり」は反則なのか?
日本修斗協会のプロフェッショナル修斗公式ルール第58条には、禁止される攻撃や行為が列挙されています。
頭突きや目への攻撃などのほか、レフェリーの指示に従わない行為、全力で戦わないショー的行為、レフェリーがマナーに反すると判断する行為なども禁止されています。
しかし、「失神を装う」「死んだふりをする」と明記した項目はありません。
そのため、死んだふりという動作だけで自動的に反則が成立するとはいえないものの、試合中の状況や審判の判断によって評価が変わる余地があります。今回も公式に「合法な戦術」と認定されたというわけではありません。
杉本選手の試合ではこの行為による反則裁定はなく、試合が続行されました。
レフェリーが失神と判断していたらどうなった?
ここが今回の作戦で最も危ういところです。
公式ルール第52条は、関節技や絞め技が完全に極まったとレフェリーが判断した場合、テクニカル一本による決着を認めています。
つまり杉本選手が腕を下ろした瞬間に、レフェリーが絞め技は完全に極まったと判断していれば、そこで試合が終了していた可能性があります。
相手選手だけでなく、レフェリーにも本当の失神だと思われかねない。作戦が成功したからこそ笑い話のように見えますが、負けに直結するリスクもあったのです。
鈴木尊がチョークを解いたのはなぜ?
対戦相手の鈴木尊選手は、杉本選手が脱力したように見えた後、絞め技を解除しました。
鈴木選手本人が何を考えて技を解いたのかについて、詳しい説明は確認できていません。意識を失ったと受け取った可能性はありますが、断定はできません。
絞め技で相手が反応しなくなれば、本当に失神している可能性もあります。安全を意識して技を緩めたのだとすれば、単純に「油断した」と片付けるのも違うでしょう。
杉本静弥と鈴木尊の試合で何が起きた?
舞台は2026年10月19日、東京・後楽園ホールで開催された「Lemino修斗.9」。第3試合のフライ級5分3ラウンドで、杉本静弥選手と鈴木尊選手が対戦しました。
杉本選手はTHE BLACKBELT JAPAN千葉所属で当時世界5位。鈴木選手はFour Rhombus所属で世界12位、2025年の同級新人王です。
第1ラウンド、鈴木選手が杉本選手の背後に回り、リアネイキドチョーク(裸絞め)を仕掛けます。
立った状態で絞められた杉本選手は、両腕をだらりと下げ、まるで意識を失ったかのように脱力。ところが鈴木選手がチョークを解くと、すぐさま向き直って攻防を再開したのです。
その後、杉本選手はマウントやバックを奪って攻撃を展開。試合は3ラウンドまで続き、ジャッジ3人がいずれも29-28で杉本選手を支持しました。
結果は杉本選手の判定3-0勝利。死んだふり自体で勝敗が決まったわけではなく、ピンチから脱出した後の攻防も勝利につながりました。
試合の正式な結果は修斗公式の試合結果でも確認できます。
本人も「死んだフリ作戦成功」と投稿
杉本選手は試合後、自身のXで「死んだフリ作戦成功」と投稿しています。偶然脱力したのではなく、意図した作戦だったことが本人の言葉からも分かります。
杉本選手の公式Xから本人の投稿をご確認ください。
「死んだふり」と普通のフェイントは何が違う?
格闘技では、相手をだますこと自体は珍しくありません。パンチを出すと見せて蹴る、タックルに入ると見せて打撃を狙う。こうしたフェイントは駆け引きの基本です。
ただし今回の死んだふりには、普通のフェイントとは違う難しさがあります。
相手の防御を誘うのではなく、「もう戦えない状態になった」と思わせて絞め技を解除させる作戦だからです。
もし鈴木選手が技を解かなければ、杉本選手は実際に意識を失う危険がありました。反対に、失神を演技だと思い込んで対応が遅れるような事態も避けなければなりません。
公式ルール第59条では、レフェリーにルールと選手の安全を守る責務が定められています。勝負の駆け引きと安全確保がぶつかりかねない点こそ、今回の行為が議論を呼んだ理由でしょう。
SNSでも「戦術」「ずるい」と賛否
試合映像が広がると、SNSでは「立派な戦術だ」という声がある一方、「ずるい」「レフェリーが止めていたら終わっていた」といった反応も見られました。
もっとも、今回の結果だけを見て、同じ作戦がいつでも通用すると考えるのは早計です。
格闘技では、相手の安全を考える判断も重要になります。鈴木選手が絞め技を解いた理由を本人が明かしていない以上、相手を責めるような結論は避けたいところです。
杉本静弥はどんな格闘家?過去には絞め技で敗戦も
杉本静弥選手はTHE BLACKBELT JAPAN千葉に所属するプロ総合格闘家です。2023年11月にプロデビューし、大竹陽選手との初戦は引き分け。その後は大竹選手へのTKO勝利などを重ねました。
2026年3月には高岡宏気選手にリアネイキドチョークで一本負けし、6月には岡田嵐士選手に判定勝利。今回の鈴木尊戦でも勝利を挙げています。
ゴング格闘技が伝えた鈴木戦終了時点の戦績は7勝2敗1分です。
以前に絞め技で敗れた経験がある杉本選手が、今回は絞め技から思いもよらない方法で脱出したというのも興味深いところ。ただし、過去の敗戦が今回の作戦のきっかけだったかどうかは確認できていません。
まとめ:死んだふりは即反則ではないが、リスクの大きい作戦
杉本静弥選手の死んだふりは、絞め技を解除させることに成功し、判定勝利へとつながりました。
修斗の公式ルールに失神を装う行為を名指しした禁止規定は見当たりません。ただし、ショー的行為やマナー違反に関する規定があるため、「死んだふりなら必ず合法」とは言い切れません。
何より、レフェリーが絞め技の成立を認めれば敗北していた可能性があり、相手が絞め続けていれば実際に危険な状態になるおそれもありました。
大胆な発想で勝利をつかんだ一方、選手の安全と駆け引きの境界線について考えさせられる一戦です。
