渋谷駅の昔の写真を見て、「これが渋谷だった」「昔の方が良かった」と懐かしく感じる人がいます。
かつて地上にあった東横線のホーム、特徴的なかまぼこ型の屋根、東急百貨店東横店。今の渋谷駅とはずいぶん違う風景です。
一方、現在の渋谷駅はまだ「完成した姿」ではありません。大規模な再開発は2034年度の全体完成を予定しており、2030年度ごろから駅の使いやすさも大きく変わる計画です。
新しくなるとき、昔が懐かしくなるのは自然なこと。でも新しい街は、その時代を生きる人がより過ごしやすい場所を目指してつくられていきます。
昔の渋谷を振り返りながら、工事がいつ終わり、これからどんな街になるのかを整理します。
渋谷駅の工事はいつ終わる?全体完成は2034年度予定
「渋谷駅って、ずっと工事していない?」と感じている人も多いのではないでしょうか。
東急が公表している計画では、渋谷駅周辺の再開発は2034年度に全体完成する予定です。
ただし、2034年度まで現在と同じ工事中の状態が続き、ある日突然完成するわけではありません。
- 2030年度:渋谷駅と駅を中心とした歩行者ネットワークが概成
- 2030年度:JR渋谷駅の改札・コンコース整備がおおむね完了
- 2031年度:渋谷スクランブルスクエア第II期(中央棟・西棟)が完成予定
- 2034年度:ハチ公広場などを含めた全体完成予定
利用者が大きな変化を感じられそうな一つの節目が2030年度です。
JR渋谷駅では最大幅20メートルを超える東西自由通路が整備され、駅を中心とした歩行者ネットワークも概成する予定です。
鉄道施設や幹線道路、渋谷特有の高低差などによって移動しにくかった場所をつなぎ、街へアクセスしやすくすることが再開発の大きな目的になっています。
「渋谷ダンジョン」とも呼ばれてきた複雑な駅周辺ですが、完成後は現在より移動しやすくなることが期待されます。
「昔の渋谷駅の方が良かった」と懐かしむ声
未来の渋谷が少しずつ見えてきた一方、SNSでは昔の渋谷駅を懐かしむ投稿も見られます。
特に印象に残っている人が多いのが、地上にあった東横線渋谷駅でしょう。
東横線の渋谷駅は1927年に開業。その後、駅は何度も改良され、1964年の大規模改良では特徴的な「かまぼこ屋根」が登場しました。
長いホームに東横線の電車が入り、そこで乗客が降りる。改札を抜ければ渋谷の街が待っている。
横浜方面から東横線に乗ってきた人にとって、渋谷は文字通り終着駅でした。
ところが2013年3月16日、東横線渋谷~代官山間が地下化され、東京メトロ副都心線との相互直通運転が始まります。
それまで渋谷が終点だった東横線が、渋谷を越えて新宿三丁目や池袋方面へとつながりました。現在では副都心線から東武東上線、西武池袋線方面へも直通する大きな鉄道ネットワークになっています。
利便性が大きく向上した一方、「電車を降りて渋谷の街へ出ていく」という終着駅ならではの感覚は失われました。
東急の100年史によると、地上駅最後の日には、その姿を惜しむ多くの人が集まったとされています。
東急東横店も渋谷駅を象徴する風景だった
昔の渋谷を語るうえでは、東急百貨店東横店も外せません。
駅と一体になった独特の建物は、長い間、渋谷の風景の一部でした。
再開発に伴い2013年3月に東館が閉館。その後、2020年3月31日に西館・南館が閉館し、東横店は85年にわたる歴史に幕を下ろしました。
駅のホームだけでなく、百貨店、バス、改札、駅前の雑然とした景色まで含めて「昔の渋谷」だったと感じている人もいるのでしょう。
便利になったのに、なぜ昔の方が良く感じるのか
もちろん、昔の渋谷駅がすべてにおいて現在より便利だったわけではありません。
東横線と副都心線がつながったことで鉄道ネットワークは大幅に広がりました。
街にも渋谷ヒカリエ、渋谷ストリーム、渋谷スクランブルスクエア、渋谷フクラス、Shibuya Sakura Stageなどが次々と誕生しています。
それでも昔の写真を見ると、「あの頃の方が良かった」と感じることがあります。
街には、利便性だけでは測れない価値があるからではないでしょうか。
いつも通った改札、友人と待ち合わせた場所、電車から眺めた景色。学生時代や若い頃に歩いた街なら、その風景そのものが自分の記憶と結びついています。
当時は特別だと思っていなかった景色でも、なくなってから初めて「あの場所が好きだった」と気づくことがあります。
昔の渋谷駅の写真が多くの人の記憶を呼び起こすのも、古い建物への懐かしさだけではなく、その場所で過ごした時間まで思い出すからなのかもしれません。
昔の渋谷も、かつては「新しい渋谷」だった
一方、もう少し長い時間軸で渋谷を見ると、興味深いことに気づきます。
今、多くの人が懐かしんでいる渋谷駅も、最初からあの姿だったわけではありません。
1927年に開業した東横線渋谷駅は、その後何度も姿を変えています。後に渋谷の象徴となったかまぼこ屋根も1964年の大規模改良によって生まれたものでした。
つまり、ある世代にとっての「昔ながらの渋谷」は、その前の世代にとっては新しく生まれ変わった渋谷だったことになります。
街が大きく変わるとき、「前の方が良かった」と感じるのは決して不思議なことではありません。
むしろ、それだけ以前の街にたくさんの思い出があったということでしょう。
そして渋谷は、昔の風景をすべて消して新しくしているわけでもありません。
旧東横線の記憶は現在の渋谷にも残っている
現在の渋谷ストリーム周辺を歩くと、かつて東横線が走っていた痕跡を見ることができます。
旧東横線の線路跡は遊歩道「渋谷リバーストリート」などに生まれ変わり、渋谷ストリームには旧東横線の高架橋の一部も再利用されています。
さらに旧渋谷駅を思わせるかまぼこ屋根や、駅の特徴だった「目玉壁」も再現され、一部には実際に使われていたレールも残されています。
新しい渋谷の中に、昔の渋谷の記憶も受け継がれているのです。
昔を残すことと、新しくなることは、必ずしも反対ではないのでしょう。
2034年、新しい渋谷はもっと過ごしやすい街へ
現在の渋谷駅を利用していると、「出口が分かりにくい」「以前より歩くようになった」と感じる場面もあります。
しかし、今見ている渋谷は完成形ではありません。
東急は2030年度から、鉄道駅間の乗り換えや街へのアクセスが段階的に大きく改善するとしています。
地上だけでなくデッキ階でも街がつながり、駅の東西を結ぶ自由通路ができる。今は工事などによって移動しにくい場所も、完成後には人が行き来しやすい空間へと変わっていく計画です。
昔の渋谷には、昔の渋谷にしかなかった良さがあります。
それを「古かったから」と否定する必要もなければ、「昔の方が良かったから」と新しい渋谷を否定する必要もありません。
街が新しくなるとき、私たちはいつも少しだけ昔が懐かしくなります。
でも、新しい街はその時代を生きる人にとって、より移動しやすく、より過ごしやすい場所になることを目指してつくられています。
かつて地上の東横線ホームが当たり前の風景だったように、2034年度に完成する新しい渋谷も、いつか当たり前の日常になるのでしょう。
そして何十年か後には、今の若い世代がその渋谷を振り返り、「あの頃の渋谷が懐かしい」と話しているのかもしれません。
街は変わっても、そこで過ごした人の記憶までなくなるわけではありません。昔の渋谷を懐かしみながら、これから生まれる新しい渋谷にも期待する。変わり続ける街だからこそ、渋谷にはいつの時代にもそれぞれの人の「渋谷」があるのではないでしょうか。
