年末の『FNS歌謡祭』といえば、豪華なシャンデリアの下に並ぶ円卓。ドレスアップした歌手たちが、ほかのアーティストのステージを見守る光景を覚えている人も多いのではないでしょうか。
ところが近年、あの「飛天」がテレビに映る機会は減りました。なぜ会場が変わったのでしょう。
直接の転機は2020年のコロナ禍。ただ、2022年には飛天が一度復活しています。つまり、単純に「コロナで使えなくなった」という話ではありません。制作スタッフの証言や会場の歴史から、背景を考えてみます。
FNS歌謡祭が飛天でやらなくなったのはいつから?
グランドプリンスホテル新高輪の大宴会場「飛天」がFNS歌謡祭の舞台になったのは1991年。1996年と1997年には横浜アリーナで開催された時期もありましたが、長年、番組を象徴する場所でした。
2020年と2021年は新型コロナウイルスの影響で従来の形式を変更。2022年には飛天からの放送が復活したものの、2023年からは再びフジテレビ社屋などを使うスタイルになりました。
2022年に戻れたのなら、なぜそのまま続かなかったのか。そこが今回の疑問の核心です。
なぜ飛天に戻らない?考えられる3つの背景
1.ホテルでの番組制作は準備が大がかり
飛天は約2000平方メートルの大宴会場。テレビスタジオと違い、音楽特番用のセットや機材をその都度持ち込む必要があります。
フジテレビ公式サイトのスタッフインタビューでは、当時のFNS歌謡祭について、搬入からセットの建て込み、本番までほぼ1週間かかったという話も紹介されています。
会場使用料、設営、運搬、人員の確保を考えれば、自社スタジオで制作するより負担が大きくなる可能性があります。ただし、フジテレビが「制作費を理由に飛天をやめた」と発表したわけではありません。ここは制作体制から見た考察です。
2.豪華なシャンデリアが、実はセット作りの制約だった
飛天の魅力といえば、天井に輝く巨大なシャンデリア。ところが制作側にとっては、これが悩みの種でもありました。
1991年からセットデザインを担当した越野幸栄さんは、フジテレビ公式インタビューで、シャンデリアが重くて位置を動かせず、それを避けながら舞台を作っていたと説明しています。大きなセットを運び込むには出入口も狭かったそうです。
1996年と1997年に横浜アリーナへ移った背景にも、こうした会場の使いにくさがありました。それでも飛天に戻ったのは、普通のコンサート会場とは違う豪華な世界観を大切にしたかったから。
つまり飛天は、使いやすいから選ばれた会場ではなく、苦労してでも使う価値がある会場だったのです。
3.円卓で歌を聴く番組から、ステージ中心の番組へ
昔のFNS歌謡祭には、ちょっとした芸能界の晩さん会のような雰囲気がありました。大物歌手が若手の歌に拍手したり、普段は共演しない人たちが同じテーブルを囲んだり。客席の様子まで含めて楽しめたものです。
近年は豪華なコラボ、ダンス、ミュージカル、特別企画など、個々のパフォーマンスを見せる構成が目立ちます。別々のステージや場所を使う演出も珍しくありません。
今の番組にも魅力はありますが、出演者が一つの宴会場に集まることの意味は、以前より小さくなっているのかもしれません。
番組演出の違いについては、FNS歌謡祭とMステは何が違う?カメラワークと照明で分かる番組の本気度でも紹介しています。
そもそも、なぜFNS歌謡祭は飛天だったのか
フジテレビの美術デザイナー・越野幸栄さんによると、1991年に飛天でセットを作り始めた際、制作側から求められたのは、従来の音楽番組とは違う特別感でした。
宴会場でも、ライブ会場でも、劇場でもない新しい空間。その理想に飛天の豪華な内装がぴったりだったのでしょう。
実はステージの配置も毎年同じではありません。複数の舞台を作るなど試行錯誤を重ね、2002年以降に対面式の構成が発展していきました。
見慣れた円卓とステージの風景も、長い時間をかけて作られたものだったのですね。
ちなみに、会場の正式名称は「飛天」。よく「飛天の間」と呼ばれますが、フジテレビの公式インタビューでもその違いが紹介されています。
飛天はなくなる?FNS歌謡祭が復活する可能性
もう一つ気になるのが、グランドプリンスホテル新高輪の再開発です。
西武ホールディングスは高輪エリアの再開発を計画しており、2026年にスケジュールを見直しました。2026年10月時点ではホテルと飛天の営業は続いており、計画上は2029年度の解体着工、2035年度の新施設完成・開業を目指しています。今後変更される可能性はあります。
つまり、飛天がすでになくなったからFNS歌謡祭の会場が変わったわけではありません。
2022年には一度復活しているだけに、将来の特別企画で再び飛天が使われる可能性もゼロとは言えないでしょう。ただし、現時点で復活が決まったという情報はありません。
いつか現在の飛天が姿を消すのなら、その前にもう一度、あのシャンデリアと円卓が並ぶ年末の景色を見たいものです。
まとめ|飛天の会場変更は番組の変化も関係していそう
FNS歌謡祭が飛天を離れた直接の転機は2020年のコロナ禍でした。しかし、2022年に復活した後も定着しなかった理由は、それだけでは説明しきれません。
ホテルでの大がかりな制作、セット設営の制約、そして番組スタイルの変化。こうした事情が重なった可能性があります。
飛天でのFNS歌謡祭には、歌だけではない特別な華やかさがありました。今のステージ演出を楽しみながらも、あの円卓の景色が恋しくなる。そんな年末の記憶も、番組の長い歴史の一部なのでしょう。