Mrs. GREEN APPLEの大森元貴さんが、国民的バンドと呼ばれる現在について「意図してこうなっています」と語ったことが注目されています。
この言葉を最近の発言と重ねていくと、ミセスが偶然ここまで大きくなったわけではないことが見えてきます。音楽だけでなく、テレビやバラエティー、俳優など「いろんな顔」を見せてきたことも、実は一つの方向につながっているのではないでしょうか。
そこから見えてくるのは、単なる売れるための戦略というより、広く知られた後も「多くの人に届ける側」であり続けようとする覚悟です。
ミセスは「意図して」国民的バンドになった
2026年9月、読売新聞オンラインのインタビューで、大森元貴さんは国民的バンドと呼ばれる現在について「意図してこうなっています」と答えています。
かなり印象的な言葉ですが、突然出てきたものではありません。
Mrs. GREEN APPLEは2020年7月に「フェーズ1」を完結して活動を休止。約1年8カ月を経た2022年3月、現在の大森元貴さん、若井滉斗さん、藤澤涼架さんによる3人体制で「フェーズ2」をスタートしました。
そして大森さんは2025年、フェーズ2を始めた目的について「世間にミセスをもっともっと広めていく」ためだったと説明しています。
しかも、その方法は音楽だけではありませんでした。
大森さんは「フルスロットルで全方位で活動しよう」という強い意志と目標を持ってスタートしたと振り返っています。
さらに2026年9月のインタビューでは、もっとストレートに「フェーズ2は始まる時に『売れよう』みたいなことを掲げた」と明かしました。
「売れよう」と決め、間口を広げる。そして実際に多くの人に知られる存在になる。
こうして過去の発言を並べてみると、「意図してこうなっています」という一言の重みが変わってきます。
もちろん、計画すれば誰でも国民的な人気を得られるわけではありません。ただ少なくともミセスは、人気が出た結果として大衆の中に入っていったのではなく、自分たちから大衆の中へ入っていくことを選んだバンドだったことが分かります。
「いろんな顔」はブレではなく間口を広げるためだった?
現在のMrs. GREEN APPLEには、本当にいろいろな顔があります。
ライブでは巨大な会場を沸かせるロックバンド。ヒットチャートではJ-POPを代表する存在であり、テレビでは3人の親しみやすいキャラクターも知られるようになりました。
大森さん個人も音楽だけにとどまりません。
2025年には映画「#真相をお話しします」で映画初出演にして初主演。NHK連続テレビ小説「あんぱん」にも出演するなど、俳優としても活動しています。
若井さん、藤澤さんもそれぞれテレビ番組などに出演しており、現在のミセスが音楽番組だけに活動の場を限定していないことが分かります。
バンドに対して「音楽一本で勝負してほしい」という価値観もあるでしょう。
しかしミセスの場合、この活動の広がりを単純な“本業以外への進出”と見るだけでは、その狙いを捉えきれないのかもしれません。
なぜなら大森さん自身がフェーズ2について、ミセスをもっと広めるために「全方位」で活動したと説明しているからです。
つまり、いろんな顔を持つこと自体が「間口を広げる」というフェーズ2の目的とつながっていたと考えることができます。
普段バンドの音楽を積極的に聴かない人がテレビで3人を知ることもあるでしょう。映画やドラマをきっかけに大森さんを知り、そこからミセスの曲にたどり着く人もいるかもしれません。
入り口は一つでなくていい。
音楽、ライブ、テレビ、バラエティー、演技。それぞれ違う入り口を作りながら、その中心にはMrs. GREEN APPLEの音楽がある。
そう考えると、いろんな顔があることは「軸がない」のではなく、むしろ多くの人に届けるという一つの軸から広がったものにも見えてきます。
アルバム『POPS』に込められた「覚悟」と「戒め」
そして2026年9月30日、Mrs. GREEN APPLEはフェーズ3最初のオリジナルフルアルバム『POPS』を発売しました。
タイトルだけを見ると、「自分たちこそ今のポップスを代表する存在だ」という宣言にも感じられます。
しかし大森さんが語っている意味は少し違います。
大森さんは『POPS』というタイトルについて、自分たちに対する「戒め」だと説明しています。
「分かってくれる人に届けばいい」という作り手ではなく、多くの人に届ける覚悟を持った音楽人でありたい。そのような思いが込められていると語りました。
これは、今のミセスを考えるうえでかなり重要な発言ではないでしょうか。
まだ知られていない時期に「たくさんの人に聴いてほしい」と願うのと、すでに多くの人から求められる存在になった後で「これからも多くの人に届ける」と決めることは少し違います。
後者には期待され続けることも含まれます。
それでも大森さんは「分かる人だけ分かればいい」という場所へ閉じこもらず、『POPS』という非常に大きな言葉をアルバムタイトルに選びました。
『POPS』には「Brand New」「共犯」「シンデレラ」「本と彗星」「GOOD DAY」「lulu.」「風と町」「夏の影」「Variety」など全16曲を収録。
大森さんは収録曲について、難しい内容や批評的な要素を持つ作品があることも明かしています。
つまり、誰にでも届くようにすることと、無難なものだけを作ることは同じではありません。
大衆に届けながら、自分たちが面白いと思える表現も続ける。
『POPS』というシンプルな4文字には、その難しい場所に立ち続けようとする覚悟も込められているように感じます。
セカオワやヒゲダンとは違う「国民的」への向き合い方
大森さんの「意図してこうなっています」という発言を受け、SNSではSEKAI NO OWARIやOfficial髭男dism、米津玄師さんなど、同時代に大きな支持を得てきたアーティストと比較する意見も見られました。
中には「先行するアーティストが走ってきたレールをミセスがさらに進んでいる」といった趣旨の考察もあります。
ただし、誰かが「国民的バンドになる道を降りた」、その道をミセスが「引き継いだ」と確認できる事実はありません。それぞれが異なるスタイルで音楽活動を続けているため、単純なリレーのように捉えるのは難しいでしょう。
それでも比較することで、ミセスの特徴は見えてきます。
それは「大衆に届くこと」を自らの目標として、かなり明確に言葉にしていることです。
「売れよう」と掲げ、「間口を広げる」ためにさまざまな活動へ挑戦し、実際に多くの人に知られるようになった。
ここまでなら、フェーズ2の物語です。
興味深いのは、その目的を達成した後のミセスが、大衆から距離を取るのではなく『POPS』を掲げたことではないでしょうか。
「広く知られたい」から「広く知られていることに責任を持つ」へ。
ミセスの覚悟は、少しずつ次の段階へ移っているように見えます。
フェーズ3は「売れた後」に何を残せるか
Mrs. GREEN APPLEは2025年12月31日でフェーズ2を完結し、2026年1月1日からフェーズ3へ入りました。
今回はフェーズ1完結時のような活動休止は設けず、3人体制のまま活動を継続しています。
そして大森さんは2026年9月、フェーズ3について、フェーズ2で多くの人に知ってもらったうえで「正しく愛情を返していく」「深度を深めていく」ことを大切にするフェーズだと説明しています。
この変化はとても興味深いものです。
フェーズ2は「売れよう」と決めて間口を広げた。
フェーズ3では、そこで出会った人たちとの関係を深くしていく。
つまり、単純に数字をさらに大きくするだけのフェーズではないのでしょう。
だからこそ、今のミセスにはいろんな顔があっていいのだと思います。
ロックバンドでもあり、ポップスターでもある。テレビでは親しみやすい3人の姿を見せる一方、作品では簡単には割り切れない感情や人間の暗い部分まで描く。大森さんは俳優として別の表現にも挑戦しています。
それらは一見バラバラに見えて、実は「誰も置いていかず、多くの人に届ける」というところでつながっているのかもしれません。
国民的バンドになったこと以上に印象的なのは、その現在地について大森さんが「意図してこうなっています」と言い切ったことです。
そして、そこまでたどり着いた今も『POPS』という言葉を「戒め」として自分たちに課している。
Mrs. GREEN APPLEの強さは、売れたことだけではなく、売れることも、広く届けることも、その先で期待を背負うことも、自分たちの意思で引き受けようとしているところにあるのではないでしょうか。
フェーズ3で見せる顔は、これからさらに増えていくかもしれません。それでも最後には音楽へ戻ってくる。そんな自由さと覚悟が同居しているところも、今のミセスの面白さなのだと思います。
