テレビを見ていると、突然流れてくるディオール(Dior)のCM。
海外のスターが登場し、美しい映像と音楽が流れる。まるで映画のワンシーンのようですが、「結局、何を宣伝しているんだろう?」と思ったことはありませんか?
あのCMを見て、すぐに高級バッグを買おうと思う人は、それほど多くなさそうです。それなのに、なぜハイブランドはテレビでCMを流すのでしょう。
実は、商品の購入を直接促すだけでなく、ブランドへの憧れや「欲しい」という気持ちを育てることも大切な目的なんです。ディオールの公式資料にも、その考え方につながる説明がありました。
ディオールのCMは何が目的?公式資料に書かれていたこと
ディオールを傘下に持つLVMHの公式採用サイトには、2026年9月3日付で、パルファン・クリスチャン・ディオール日本法人のPR担当者の募集要項が掲載されています。
そこでPR・コミュニケーション活動の目標として挙げられているのが、ブランドの「認知度(awareness)」「イメージ(image)」「欲しいと思われる魅力(desirability)」を高めることです。
さらに、新商品の認知や期待感を高め、事業目標につなげることも書かれています。
つまり、ただ名前を知ってもらうだけではなく、「ディオールって素敵」「いつか使ってみたい」と感じてもらうことも、PRの重要な仕事なんですね。
ただし、これは日本法人の香水・スキンケア・メイクアップ分野に関するPR方針です。個別のテレビCMについて「買わない人に見せるため」と公式に説明したものではありません。
なぜ買わない人にもハイブランドのCMを見せるの?
ここがちょっと面白いところです。
例えば、ディオールのバッグを持っている人を見たとき、「あ、ディオールだ」とわかる人は少なくないはず。
そのブランドを自分では買わなくても、高級感や特別なイメージを知っている。こうした広い認知は、ブランドの社会的な存在感を支える要素になります。
もちろん、バッグの価値は知名度だけでは決まりません。デザインや品質、職人技、歴史も大切です。
それでも、周りの人まで知っているブランドだからこそ、持つ喜びが大きくなる人もいるでしょう。
買わない人にも名前と世界観を覚えてもらう。 これは高級ブランドの広告を考えるうえで、見逃せない視点です。
ディオールのCMが映画みたいなのはなぜ?
ディオールのCMは、商品説明よりも映像の美しさが印象に残ることがありますよね。
特に香水は、テレビから香りそのものを届けられません。
だからこそ、映像、音楽、出演者、物語を通じて、香りの雰囲気や身につけたときの気分を想像してもらう表現が使われます。
例えば、こちらは読者からも話題に挙がったディオールのCM動画です。
「映画みたいで素敵だなあ」と眺めるだけでも、ディオールの印象が少し変わるかもしれません。
ちなみにLVMHの公式ブランド紹介でも、ディオールの香水の魅力を伝える存在としてナタリー・ポートマンなどの著名人が紹介されています。
ハイブランドのCMは本当に売上につながるの?
とはいえ、あれだけ豪華な映像を作って元が取れるのか、気になりますよね。
ディオールにはバッグやジュエリーだけでなく、香水やリップなど、比較的手に取りやすい商品もあります。
高級バッグを買う予定がなくても、百貨店で香水を見かけたときに「テレビで見たディオールだ」と思い出すことはありそうです。
また、今すぐ買わなくても、誕生日のプレゼントや自分へのご褒美を選ぶときに候補に入るかもしれません。
LVMHの2025年年次報告書でも、ディオールのバッグ「レディ ディオール」について、マーケティングキャンペーンがブランドの魅力を高めた取り組みとして紹介されています。
一方で、今回のテレビCM一本にいくらかけ、どれだけ売上が増えたのかという数字は公表資料で確認していません。広告の効果は、放送直後の売上だけでなく、認知や好意の変化も含めて考える必要があります。
なぜ日本のテレビで流すの?富裕層だけに宣伝しない理由
富裕層だけに商品を売りたいなら、限られた人が見る雑誌やイベントだけで十分では? そんな疑問も浮かびます。
でも、テレビには幅広い世代に一度にブランドの存在を伝えられる強みがあります。
日本には百貨店の化粧品売り場やブティックなど、ディオールの商品に触れる場所もあります。テレビで名前を覚えてもらうことは、こうした売り場での関心につながる可能性があります。
また、LVMHは2026年2月に東京・代官山へ「ディオール バンブー パビリオン」を開設したことも発表しています。日本でブランドの世界観を体験してもらう取り組みの一つです。
ただし、特定のCMを日本のテレビで流す理由や放送枠の選び方まで、公式に明かされているわけではありません。
ディオールのCMは「買って」より「憧れて」に近い?
テレビで流れるディオールのCMを見て、「なんだか映画みたいだなあ」と思う。
その場で商品を買わなくても、美しい映像と一緒にブランドの名前が記憶に残れば、イメージづくりにはつながります。
普通の広告が「この商品のここが便利です」と説明するものだとしたら、ハイブランドの広告は「こんな世界観、素敵だと思いませんか?」と問いかけてくるようなもの。
そう考えると、何を宣伝しているのかよくわからなかったあのCMも、少し違って見えてきますね。
